NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

あなたにはクンフー以外が足りないわ

他の対戦格闘ゲームのキャラクターと比べてはもちろん、『バーチャファイター』シリーズ内においてさえ、アキラのマジもんっぽさはヤバい域にあるのではないかという話を後輩とした。SASUKEにのめり込みすぎて無職になる人と同じような空気がある。最初は応援していた周りの人たちも、最近はちょっとどう接したらいいのか計りかねているような、抜き差しならないところまでいってしまって本人もどうしたらいいのかわからないような雰囲気というか。

「10年早いんだよ!」と言っているうちに、周りの人たちは仕事でも中堅の位置になり、家族を持ち、財をなしている。時たま呼びかけに応じてショー的な「試合」に出る者はまだいるが、アキラのように修行だけをして日々を過ごしている者などいない。10年、いや20年以上も同じステージで足踏みしているのは自分のほうではないかと気づいたときには、もう四十路の折り返しに来ていた。

自分には親から受け継いだ結城道場があるというのが悪い意味での安心感となり、人生設計を真摯に考えねばならない時期をやり過ごしてしまったのかもしれない。ただただ強さを求める、そのシンプルな、求道的な生き方に誇りを持っているつもりでいたが、今思えばそこに世俗的で猥雑な「人生」を生きる面倒さからの逃避がなかっただろうか。

深夜、公園のブランコに腰掛け、そんなことをぼんやりと靄がかかった頭で考える。己に問いかける。Why…人はなぜ戦う? Yes…何処かで真実の自分に出逢うためさ。だが出逢いたくなかった、こんな自分とは。振り切るようにブランコを飛び降り、すり切れ垢じみた鉢巻きを締め直す。ふと、「愛が足りないぜ」というフレーズが口から漏れた。そうだ、そうなのだ。もしかしたら、それがずっと足りなかったのかもしれない、だからこうなってしまったのだ、などという心地の良い自己憐憫自己欺瞞に、今夜もまた、逃げ込む。

誰も待つ者のない、暗く黴臭い道場へ帰り、煎餅布団に潜り込む。目を閉じる。瞼の裏に広がるのは、電撃文庫ラノベヒロインたちや、やたらと肉感的なDoAの女キャラたちとの肉弾相打つ好バトル。あれはいつのことだったか。それとも、本当はそんなことなどなかったのか。だが、そんなのはもうどっちでもいいのではないだろうか。カッコつけたままじゃ抱きあえない。あの少女たちと。女たちと。目を瞑ったアキラの口元が小さな笑みで歪み、すぐに彼は眠りの淵へと滑り落ちていく。

人は彼を、バーチャファイターと呼ぶ!

 

愛がたりないぜ