NGM+その他の欲望

Nightcap Gamer's Memopad, そしてその他諸々についてのサムシング。

スパムメールの平田



 最近のスパムメールはいろいろと手が込んでいて、最初は単なる誤送信を装い、親切心で「間違ってますよ」と返信するとなんとなくメル友的にやり取りが始まって身の上相談っぽく話が進展し、最終的にはどこぞの出会い系サイトへの登録を勧められる、というのがあるようだ。うちにはきたことがないけど、代表的なのは渡辺春香を名乗るもの。

一通目

>私のパソコンに件名も本文も書いていないメールが来たので
>とりあえず返信してみました。
>私は女性で渡辺と申します。間違いだったらごめんなさい

二通目

>そうだったんだですかあ。 じゃあ誰が送ったんでしょうね?
>けど、このメルアドが男の人だとわかって、ちょっとオロオロしちゃいました。
>実は、私の周りって女の子ばかりだから、男性からメールをもらったことないんです。
>でも、なんだかほっとしました。
>わざわざメールをくださってありがとうございました。

 こういう感じで掴んで、三通目でこう。

三通目

>またメールしてしまいましたが、迷惑でしたか?
>そういえば、あのメール誰が送ったんでしょうね?

>普段、メールが来ることってほとんどないものですから、
>返事が来るだけでうれしいものですね。

>家に帰っても誰もいないから、
>パソコン開いて、メールが届いているのって本当にうれしいですね。

>突然ですけど、どうして人は親を選べないんでしょうか…

どうして人は親を選べないんでしょうか…」! ものすごい引きだ! 次号怒涛の急展開的。うまいねどうも。基本的に定型文(だいたい13話くらいあるらしい)だけど、スクリプトじゃなくてこっちのメッセージも読んでるらしく、疑うような返信をすると個別対応してくれるらしい。偉いぞ渡辺。
 2chのスレッド(http://ex5.2ch.net/test/read.cgi/net/1091187101/)で、渡辺の他にも特徴的なスパムメールがいろいろさらされているけど、一番気に入ったのはこれ。

>はじめまして☆平田と申します。えーとですね、
>以前どこかで胸の大きい女性が好きって書き込んでましたよね?
>平田、胸関係で男性に避けられることが多いので、その書き込みに
>とても興味を持っててアドレスを控えてたんです。

 「平田、胸関係で男性に避けられることが多いので」……このフレーズ、普通なかなか出てこないよ。感服した。
 まず「平田」という絶妙な苗字のチョイス。全国の平田さんには悪いけど、「平田」っていう苗字はちょうどよく平凡な苗字だ。「山田」「佐藤」など実際に平凡な(=数の多い)苗字というのは、こういう場合、逆にニセモノっぽく見える。「平田」レベルの、中の下あたりの平凡さで抑えておくことに、作者のセンスが光る。さらに言えば、女性芸能人を想起させる苗字もいかにも釣りっぽくて駄目だ。平田で思い浮かぶ芸能人は平田満くらいしかいない。
 そして一人称が自分の苗字。一人称が自分の名前という女ってのはある種のクリシェだけど、苗字というのはありそうでない。現実に口頭でこんなふうに語られたら気持ち悪いが、文章ならぎりぎり許せる。むしろ可愛らしく感じるかもしれない。
 平田というごく普通の苗字の女性が、一人称に自分の苗字を使うという「ちょっとおかしな」語り口でメールをよこす。日常にぽんと放り込まれた非日常をさらりと演出し、(あーなんかこういうこともあるかもー)と話に引き込むための巧妙な呼び水。それが平田であり、「平田」という一人称なのだ。
 そして続けて「胸関係で男性に避けられることが多いので」。「胸関係」ときた。「胸」「バスト」「おっぱい」じゃなくって「胸関係」。「関係」とぼかすことによって、平田と<私>の現在の関係性――それは今はまだ一本の細い線だ。平田から投げかけられ、私が引き寄せなければ切れてしまうかもしれない、か細い線――を、二人のあいだの距離を、慎重に測量しているかのようなスリルが生まれる。一方的に誘って劣情をかきたてるための言葉ではなく、これから平田と<私>は共犯関係になる、なっていくのだということを暗にほのめかす……「胸関係」。
 とどめは「男性に避けられることが多いので」。文脈から考えて平田は胸が大きいということが予想されるが、にもかかわらず「男性に避けられることが多い」。これはどういう意味だろう。ごく一般的に考えて、胸が大きくて男に嫌われる女はまずいない。平田のいる環境が特殊なのか、それともよっぽど……? ちょっとした違和感(あるいは期待、妄想)が小骨のようにひっかかり、<私>は思わず返信ボタンを押してしまう……。


 まあそれは大げさにしても、スパム業者さんの非凡な文才を感じた一本でした。なんでも返信してやり取りが続くと、平田は筒井康隆が好きだということを仄めかすようだ。なんかこんなところで筒井康隆を出してくるのがますますすごい。ちょう絶妙。スパム人格のくせに妙に生っぽい。業者さんの頭の中では平田の詳細なプロファイルができあがってるに違いない。いや、きっと夜中に文案を考えていて一人で楽しくなって暴走したに違いない。