NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

揉め事2.0を予測する

 これからpodcastとかvlogとかの技術がどんどん発展していって、素人でも特に金をかけずに(←ここ重要)音声や映像で情報を発信できるようになったとする。もうみんな自分の声でがんがん更新。がんがん顔晒してカメラ目線で更新。もう携帯電話にpodcastvlog用のマイク・ビデオカメラが内蔵されるようになって、中川翔子の更新速度なみの勢いで何百万人もの人がサーバに音声ファイルや映像ファイルをUPする。最近の野次馬はみんな携帯やらデジカメでばしゃばしゃ写真を撮ってるけど、その頃にはもう野次馬はみんな携帯片手に実況中継→即UP。そんな未来。何ヵ月後かそれとも何年後のことかわからないし、果たしてどこまで一般化するかわからんけど。
 そうなったとき、当然、podcastvlog間の揉め事も発生したりするわけだ。ささいな喧嘩だったり訴訟一歩手前の大論争だったり各界に波紋を広げる大炎上だったり。当然それをヲチしてる人もみんなモニタの前で薄ら笑いを浮かべながらメタっぽい意見(「……ポッドキャストの……終焉……」「うふふ……これは……ひどい」)を小声で(深夜なので)呟いている自らの姿をvlogでUPしたりするわけだが。
 そんなweb論争2.0、揉め事2.0、バトルウォッチャー2.0な状況に突入したとき、問題になるのは相手の言ったことにどうやって反論するかだ。現在の文字ベースでのweb論争の場合、相手の言ったこと(=書いたこと)はテキストなので明確に言及・反論できる。コピペで引用すれば何の問題もない。反論する側も楽だし、される側も相手が具体的にどこに反論しているのかがわかるので、その後の議論も組み立てやすい。うまくいけば不毛な揉め事ではなく有意義な意見交換に発展するかもしれない。
 だがpodcastだとそこらへんが難しい。なにせ音声ファイルだ。相手の言ったことを「引用」するのも一苦労になる。モヒカン族なら律儀に相手のUPしてるMP3ファイルから言及したい箇所を再編集して切り出し「引用」するかもしれないが、素人はそんな面倒なことはしない。vlogならもっと面倒で、引用ひとつするのにいちいちFinal Cut Proを起動しなきゃいかん。はてな記法でしか書いたことなくてblockquoteタグのスペルさえ正確に書けないようなはてなダイアラーなんかにゃあとても無理だ。Final Cut高いし。
 そんなわけで、揉め事になると相手の言ったことを正確に引用して反論、なんてことをする人はいなくなる。実際に顔をつき合わせてのリアルタイムの論争ではそれでも特に問題はない。言ったことにはすぐにレスポンスがあるし、相手の表情や場の空気などの「情報量」はネットとは比較にならないほど多いから議論の方向性がぶれることもあまりない。だがpodcastvlogだと、音声や映像とはいえ非リアルタイムのやり取りだ。相手がUPしたエントリを聴いたり見たりしてカーッと頭に血が上り、パソコンの前に座ってマイクに向かって怒りに震える途切れがちな小声で(深夜なので)延々30分にもわたる反論を録音してるうちに、相手が発言したことがなんだったのか正確に思い出せなくなっていって、なんかとにかく自分に対する悪意みたいなものを感じ取ったっていうことだけが肥大化してくるのでさらに頭に血が上る。カーッ!それを延々30分間我慢して最後まで聴いた相手は、もう聴いてる途中から頭に血が上ってしまって顔を真っ赤にしながら歯軋りしてる。ギギギギギ! ぬらぬら汗ばんで震える手にはすでにICレコーダーが握られている(聴き終わったあとに即効で反論を録音するため)。最終的には言った言わないの水掛け論をものすごく口汚く交互にUPする事態になる。音声での投稿に対応しそれがストリーミングで垂れ流されるようになった2ちゃんねる2.0で祭り中の住民らは件の論争のクソ長いMP3を最後まで聴いて例によって深夜なので小声で「……きたぁー」「あの……祭りの、会場は……ここですかぁ」「あ、ビップから来ました」「ちょ、おま、……(さらに小声で)ダブルダブル、ダブリュー……」なんてことをぶつぶつ呟いている。だがはてなブックマーカーたちは最後まで聴くほど堪え性がないのでとりあえずブックマするもののタグはすべて[あとで聴く]。
 あと、論争ではないけど、誤字脱字や言葉の用法間違いへの指摘コメントも変わってくる。「シュミレーション→シミュレーション」「小説家志望と名乗るなら、ナカグロで『・・・』ではなく、三点リードで『……』としたほうがいいです。老婆心ながら」「論旨には賛同しますが、『確信犯』の使い方が間違ってます」などなどの通りすがり氏による指摘コメントも、「えー、3分20秒あたりで、裏声になっちゃってますよ」「前から気になってたんスけど、テレビつけっぱなしで録音すると聴き取りづらいです。切ったほうがいいです。老婆心ながら」「言ってることは賛成だけどさ、『確信犯』の使い方間違ってんよ。っぶひゃ」みたいな感じになってとても厭な雰囲気に。親切からの指摘でも新たな火種を生むようになる。
 そして深夜なので小声で喋っている人がほとんどのため、「ネットでは声の大きい人の意見が目立つ」という法則がかつてないほど実感を持って語られる。

SONY ICレコーダー [ICD-B40] SC

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Final Cut Pro 5

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