NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

ヤンキーがヒルズで成りあがり/与沢翼『スーパーフリーエージェントスタイル』

ちょっと前にid:kanoseさんがKindle版のセール情報をTweetしてたので、思わず勢いで買ってしまった「ネオヒルズ族与沢翼の『スーパーフリーエージェントスタイル 21世紀型ビジネスの成功条件』。まあセールで250円だったらいいかなー程度の気持ちだったのだが読んでみるとけっこう面白いよこれ。与沢の今の商売についてのPRでもある自己啓発ビジネス書っぽい部分はどうでもいいのだが、第2章の自伝風のところがなかなか楽しい。地方ヤンキーの成り上がり版『ソーシャル・ネットワーク』……とか言うと褒めすぎだと思うけど(まあ大学生時代にネットビジネスで起業している、裏切りもある、くらいしか共通項ないし)、ここらへんの話、誰か小説とか映画にすると面白そうだと思った。もちろん与沢翼の宣伝用にじゃなく、それこそ『ソーシャルネットワーク』くらいの距離感で。うーん、映画だと『サイタマノラッパー』シリーズの入江悠監督あたりのテイスト?

それはともかくとして、与沢翼は金持ちのおっさん連中に好かれるだろうなーというのを強く感じた。

あのですね、ネットベンチャーの若い経営者とかその界隈のオピニオンリーダー的な立ち位置の人たちの言説って、まあ乱暴じゃないですか。既得権益側の人をdisる、嘲笑する感じが基本姿勢じゃないですか。横紙破りというか、既存のものに対しては失礼な態度を取るのがかっこいい的価値観じゃないですかあの人たち。

その点、与沢翼は「礼儀、大事っすよ」「マジ重要っすよ当たり前じゃないすか?」「礼儀できてない人、駄目っすよ……」的なこと何度も言う。部下にすごく高い忠誠を求めるけど、「でも俺、お前らのこと、マジ家族だと思ってるから。ファミリーだから……」とか言う。大勢の社員と毎晩のように高い酒を飲みに行ったり(飲みニュケーション!)、みんなで海外旅行(つまり社員旅行!)することで結束を高めることが大事だし、そういうことで社員は幸せになれる、なんてことをたぶんわりと本気で書いてるのだ。これは昭和的な「会社」「仕事」感とも親和性高い。そういうものを大っぴらに批判するベンチャー経営者の言説に比べて、おっさん連中には受け入れやすいだろう。もちろん与沢翼も従来的な仕事観を捨て去らなければ秒速で一億稼ぐ(笑)ことなどできないと言ってはいるのだが、要所要所に前述のようなことを織り込んでくるのでおっさん連中にも喉ごしすっきりだ。懐に入り込むのがうまい。

あと、長いこと付き合ってる彼女に対して「最高の女だから、いっぱい稼いで、お前に金かけてやるよ……それが俺の愛……男の仕事……俺のためにいつまでも綺麗でいてくれ……それがお前が見せるべき愛の形……女の仕事……」的なこと臆面もなく書く。礼儀、ファミリーもそうだけど、なんかこう、やっぱベースはヤンキー的価値観なのね。

で、ヤンキー的価値観を持った若い奴って、そいつよりある程度年上の人間から見るとすごくかわいく見えることが往々にしてあるのよね。別に年上の人間のほうにヤンキー的価値観がなかったとしても。あれだ、「やんちゃ」な後輩に目をかけるのが楽しいというホモソーシャル的感情。だからこれからけっこう、それなりの地位にある人が与沢翼を「え、なんで?」ってくらい持ち上げちゃうことがあるんじゃないかなと思う。頑張ってる若い人代表、みたいな清々しいまでの勘違いとともに。

そこらへんのヤンキー的価値観は、与沢翼のやってる情報商材とかマルチレベルマーケティングとかその手の商売との親和性も高いので、100%出自からのものというよりは今の商売からの逆算で演出されてる部分があるとは思うけど。実際、「ネオヒルズ族」を意識的に世間に見せびらかしている、ということをこの本の中でも明言しているわけだし。

そんなわけで、どう考えても賞味期限の短い本だとは思うけど、ワンコイン程度の楽しさはあると思いました。