NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

意外に生真面目『アフターショック』

新文芸坐の「シッチェス・ファンタ2013“復讐”オールナイト」に行って来た。世界最古のファンタ映画祭ことスペインのシッチェス映画祭から日本未公開のものを数本チョイス、だいたい一週間限定で特集上映するというのをここ数年松竹がやっているが(→公式サイト)、昨年の特集上映作品から4本をチョイスしたオールナイト。

『アフターショック』『ロスト・ボディ』『道化死てるぜ!』『バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所』という、それぞれまったく異なった味わいの4本立てでたいへん満足感が高かった(お客さんはあんまり入ってなかったけど……)。さて、この4本の中では唯一(あんまり見たくないなあ……)と思っていた『アフターショック』が、意外や意外というか思いのほか生真面目な映画でちょっと驚いたのであった。どんな映画かっていうと、あらすじはこんな感じ。

南米チリ・サンチャゴ。長期休暇で訪れているアメリカ人観光客の“グリンゴ”は、地元のガイド・ポヨとアリエルの3人組で夜な夜なクラブ巡りを楽しんでいた。帰国も近づいてきたある日、同じくアメリカから旅行に来ていた3人の女性と下心ありありで仲良くなった3人は、締めくくりとばかりにクラブへ。だがそこで突然の大地震! 崩壊する建物、潰される人々、阿鼻叫喚の地獄絵図……しかしそれは、恐怖の始まりでしかなかった!

チリで地震でゴアゴア不謹慎大パニック! って感じなので、まあ別に不謹慎だからといって眉を顰めるつもりはないが、でもやっぱ個人的に大地震でそういうのはまだちょっと……と思っていたのだ。ところこれが、ゴアゴア不謹慎大パニックウェ〜イ! みたいな感じではなくて、妙に生真面目なところのある映画だった。ちなみにオールナイトではこの映画が一本目。で、これが終わった後にロビーで、男女三人くらいで見に来ていたたぶん大学生くらいの男子が「マジきつい……ほんとつらい、ちょっと休みたい」と言っていたのが印象的。少なくともその程度には生真面目な映画だった。

主人公格の6人の登場人物が皆、どこか傲慢だったり身勝手だったり優柔不断だったり厭な部分があるのだが、それは俗世の人間であれば誰しも少なからず持っているであろう部分で、「嫌味な奴が酷い目に遭う」というホラー映画のクリシェ的なものからは微妙に外れる。実際、大地震後の混乱で彼ら彼女らは平穏だったときの自らの行いを悔いるのだ(地震前のちょっとした行動が遠因となって危機に陥ったりする)。だが、悔いたところで助かったりはしない。そして彼ら彼女らを襲う悪役的存在たちも、どうしようもない外道として描かれるかと思えば、ふと、そんな彼らにも仲間との、家族との絆と思いやり(まあ厭な感じの思いやりですが)があるのだ、ということを後景でさらっと描いてみたりする。その手つきがなんとも生真面目で、ゴアゴア不謹慎パニック映画だぜーウェ〜イ!! くらいの気分で半笑いで見始めると、なんていうかズシンと胃に重いの一発くらう感じで……。まあ最後あたり、お前ほんと何がしたかったんだよ! と突っ込まざるをえない展開はあったけど。

前述のとおり、俺は大地震でゴアゴア大パニック! みたいな映画はまだちょっとキツいから見たくないな……と思っていたのだが(あまり気分が乗らずに見たというのが本当のところだ)、いざ見てみたらこんな感じなので、なおさら複雑な気分になってしまった。ていうか俺、どうもイーライ・ロスが好きになれないのってこういうところで、ゴアゴア不謹慎ウェ〜イ!! みたいなセンセーショナルなテイで宣伝とかするくせに、映画自体は妙に生真面目なところがあったりするんだよね*1。もうそういうところほんとイヤ! 露悪趣味で偽悪者の優等生め!

アフターショック Blu-ray

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  • 発売日: 2014/02/08
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*1:ロスは本作では製作・脚本・出演で、監督はニコラス・ロペスという人物だが