NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

ジャンクヤードのパラダイス

クライテリオン・ゲームズ開発の『ニード・フォー・スピード モスト・ウォンテッド』の発売が間近に迫った今になって、いやまったく「今更」なのだが、積んでいた『バーンアウト パラダイス』を遊んでいる。これがねー、めっぽう面白い。別に私が言うまでもなく評価の高い作品なので何も言い足すことなどないのだけれど、でも言わずにはいられない。おっもしろいなー……面白いところしかないゲームですよこれは!

 

バーンアウト パラダイス』は、それまでのシリーズのテイスト……つまりクルマ同士のド派手なクラッシュを軸として編み上げたアグレッシブなドライビングフィールと、基本的に陽性でバカっぽいルックス……はそのままに、ゲームの構成をミッションクリアタイプではなくオープンワールドタイプに大胆に発展させた内容となっている。つまり、プレイヤーは舞台となる「パラダイスシティ」の広大な街並みを、道があるところであればどこまでも自由に走り回り、各地に点在するレースやスタント走行、ライバルカーとのチェイスバトルなどなどのミッションを気の向くままにプレイできる、ってな寸法だ(4年前のゲームの内容説明するのってなんだか気恥ずかしいね)。

前作までもミッション選択にはある程度の幅・自由度があり、決して完全な一本道のゲームプレイではなかったが、今作では全ミッションを大きな街に散りばめることで比較にならない自由度をプレイヤーに与えている。別にミッションクリアに専念する必要はなく、美しい風景を眺めながらゆったりクルーズしてもいいし、街中の各区画ごとのラップタイムを塗り替えるために爆走してもいい。それにも飽きたらボタン一発で「ショウタイムモード」に突入し、クラッシュして跳びはねる愛車をうまいこと操って信号待ちの一般車両の列を巻き込み被害総額を競ってもいい(このモード、シリーズ恒例だけど今作ではより一層「ひどい!」「頭悪い!」感が爆上がりしていて本当にひどい!)。

とにかく、クルマを使った大人げない(幼稚な、と言ってもいい)遊びをいっぱいに詰め込みましたよ、というサービス精神に溢れた作品だ。『バーンアウト3 テイクダウン』に引き続き、ゲーム中のヒントにとどまらず、この不謹慎なパーティの雰囲気作りに一役かっている「DJ RYU」ことMC RYU氏のボイスナビゲーションも実に気が利いている。

 

ところで、ゲーム中で新しいクルマをゲットすると、最初は半ば廃車状態のボロボロの姿で「ジャンクヤード」という名のプレイヤー拠点に納車される。このスクラップ寸前のクルマを選んで街に繰り出すと、DJ RYUから「まずはオートリペアで修理しようぜー」とナビされるので、指示のとおり店に行くと一瞬でピカピカの新車状態になるのだ(まあすぐにいろんなところにぶつけてボコボコになるんだが)。ボロボロの状態でもさほどのペナルティがあるわけではない。普通に走れる。他のクルマゲームなら別に最初からピカピカの状態で納車されているだろうに、あえて毎回この手順を踏ませるところに、このゲームの独特な詩情がある。まるで、一度「廃車」という死を迎えたクルマたちが、ピカピカの新車として転生し第二の生を走り出すためのイニシエーションのようだ。

ゲーム全体に横溢する陽気さが、しかし決して「脳天気」に陥らないのは、この一連の手順……儀式をプレイヤーに毎回繰り返させるからではないだろうか。それは、「不謹慎」の誹りを受けかねないゲーム内容に対する、制作者たちのある種の、ささやかな、「厳粛さ」とでもいったものではないか、私はそんなことをぼんやりと考えながら、今日もパラダイスシティに繰り出す。

 

俺をパラダイスシティへ連れ出してくれ

草は青々と輝き

女の子たちは美しい

ああ、あのふるさとへ

お願いだあんた 俺を故郷へ帰してくれ

 

ゲーム中でもテーマソングとして流れているGUNS N' ROSESの「Paradise City」は、監獄に囚われた死刑囚のように日々の生活に絶望している男が、故郷に思い焦がれるという歌だ。もちろん、ここで歌われている故郷(home)=「パラダイスシティ」は、実際のふるさとのことではない。日常に倦み疲れた心が求める理想郷としての「我が街」だ。

そう、パラダイスシティは、傷つき、スクラップ同然になってしまったクルマたちにとってのhomeなのだ。ここなら、何度クラッシュしようがオートリペアですぐに新車に戻ることができる。思う存分、自らのエンジンが焼き切れるまで走り続けることができる「楽園の街」なのだ。