ある女性から聞いた話。女子中学生がやおいに目覚めて腐女子の道へ進むきっかけはいろいろあるが、ヘッセの『車輪の下』の影響は無視できないのではないか、というのが彼女の持論だ。多くの国語教科書に掲載されているし、中学生の夏休み読書感想文課題図書として無難な一冊ではあるが、課題だからと義務的に読み進めていると、寄宿舎で少年同士がキスする場面が出てきて衝撃を受けるんだそうだ。なんだこれは！とショックを受けて、そういう世界があると初めて知るという……。へええ、と感心しましたねあたしゃあ。
今年の夏も、冷房がきいたどこかの図書館の一隅で、友達から借りた『NANA』の最新刊をカバンから取り出して読みたいのをぐっと堪えながら、薄ぼんやりとした意識で、読書感想文の宿題のためだけに『車輪の下』を読んでいる女子中学生が、突然雷で打たれたように新たな性の世界を知って戸惑ったりしているのだろうか……と、喧しい蝉の声を聴きながら思いをはせました。日本の夏。彼女たちの夏。
