NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

『刑事追う!』について

 引越しの準備をしていると、どうも昔のことを思い出してしまうな。テレビラックの奥から古いビデオテープが出てきて、背のタイトルシールに『刑事追う!』って書いてあった。ビデオデッキが壊れてしまったので中身を確認できないのが残念だが。
 『刑事追う!』はテレビ東京系で96年4月から半年間放映された刑事ドラマだ。主演は役所広司(一匹狼の警部補)と布施博(警視庁捜査一課のエリート警部)。この二人の刑事がときに反目し、ときに協力しながら巨悪を追い詰める痛快で軽妙なバディものの刑事ドラマ……なんかでは全然ない。いつの時代の刑事ドラマかと思うほど、被害者も容疑者も捜査する刑事も皆何一つ救われず、後にはただ苦い悔恨だけが残るようなトラウマエピソードばかりだった。
 そもそもアヴァン・タイトルからしてこうだ。鉄工所のようなところで拳銃を解体し、バーナーで焼き、ハンマーで殴ってひしゃげさせ、ただの鉄屑にして積み上げようとする役所広司の姿が細かいカットの連続でテンポ良く描かれる。作業台の上に鉄屑をうまく積み上げ満足した笑みを浮かべた瞬間、山が崩れて慌てる役所……ここでストップモーションになり、『刑事追う!』のタイトルが出る。全然追ってないよ! もうこのオープニングから、「これからお前らに見せるのはアクションものの刑事ドラマじゃねえんだぜ!」という制作者の気概が伝わってくる。*1
 とにかくどのエピソードも辛い話ばっかりなんだが、中でも個人的に一番辛かったのが「陰画」というエピソード。
・その後の70年代刑事ドラマ3/Ein Besseres Morgen

まじめな会社員・戸村精一は苦労人であった。妻は癌でなくなり、長女は強姦され殺されるという惨状だった。だが、そんな彼にもやっと幸せが巡ってきた。男一人で育ててきた次女が、いよいよ結婚することになったのだ。
そんなある日、強姦された長女の現場写真(警察から流出)を手に入れ、これを猟奇マニアに売り渡すと言ってゆすりをかけてくる男が、戸村の前に現れた。かっとなった戸村は男を撲殺。次女の結婚話は流れてしまう。

 これがねえ……。流出した殺害現場の写真がまた、どことも知れない空き地で服がボロボロになった女性が目を見開いて倒れているっていう本当に荒涼とした写真で、強請り屋の男がニヤニヤしながらお父さんにその写真を見せるシーンでは誰しも嫌悪感を押さえられないだろう。で、役所らの捜査によってこのお父さんは自白し逮捕されるんだが、そもそもなんでそんな写真が警察から流出したのかというと、事件を担当していた所轄の刑事が小遣い稼ぎのため売っていたのだ!(しかも常習的に!) 証拠の管理がなっていなかった、すべては私の不徳のいたす所ですとかなんとかテキトーな言い訳をする刑事に、所轄の署長も身内の恥を表沙汰にしたくないので謹慎処分だけで済ます(えー!)。そこへ暗い瞳に憤怒を湛えてやってきた役所広司。「あ? 何か?」とかすっ呆ける刑事を一発殴ったところでこのエピソードは終わり、スタッフロールが流れる(ちなみにエンディングテーマを唄うのはm.c.A・T)。何も解決してねえ!
 毎回こんな感じで、役所広司布施博がやり切れない表情をして終わるエピソードばっかりだった。
 どう考えても地味だし、ゴールデンタイムの一時間ドラマなのに面白おかしいところは皆無だが、けっこうファンはいたはずだ。「キネマ旬報」のテレビドラマ短評コーナーで誰かがこの作品を時代錯誤で暗いだけのドラマだとかなんとか貶してて、確か「映画芸術」だったと思うが、切通理作が反論として長編の現場レポートと評論を書いていたはず。
 関東地方では一度しか再放送をしてないが、地方局では何度かやっているとのことだ。だが残念ながら、DVD化はされていない。初回2時間スペシャルだけがビデオ化されているのみだ。DVDボックスを出してほしいんだけど、無理だろうか……。

*1:このアヴァン・タイトルの演出は市川崑。その他にも、蔵原惟善・工藤栄一降旗康男佐藤純弥舛田利雄長谷部安春・和泉聖治・松原信吾・澤井信一郎・出目昌伸・村川透と、全エピソードを映画監督が演出するという妙に豪華なドラマでもあった。