NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

例えなくてもいいです

 午前中の予定が押して遅くなったし、面倒だから今日の昼飯は軽めでいいやと入った軽食喫茶にて。隣のボックスの三十代前半くらいの男ふたりが、昼下がりの喫茶店に似つかわしくないシリアスでヘヴィな会話をしている。悩み事相談なのだろうが、仕事上のトラブルへの対応を巡って、組織人としての合理的判断と彼個人のクリスチャンとしての信仰の葛藤について、押し殺した声で切々と相手に訴えている。聞き役の男は一通り話を聞いたあと、自らの過去の経験をもとに、ぽつりぽつりとアドバイスを始めた。どうやら彼もクリスチャンらしい。
 聞き耳を立てるのも憚られるような真摯な対話だったのだが、いかんせん昼下がりの喫茶店には私と隣のボックスのふたり以外には客がいなかったので話し声はほとんど筒抜け。しかも店内BGMはジムノペディ→小川のせせらぎ→ジムノペディ→小川のせせらぎ→……というミニマムループをごく小さな音量で流してるもんだからこの場面にばっちりはまっちゃってるし、逃げ場がない(メンタル面で)。離れた席に座れば良かったと後悔しながら食後のコーヒーを待ってると、どうも話が煮詰まってきたようで、悩みを打ち明けていたほうの男が少々興奮しながらアドバイス役の男に反論し始めた。さらに張りつめる空気。うわー早くコーヒー来ないかなあ。俺ちょっと居心地悪いっていうか。聞こえないふりしとくけど。でもぜんぶ聞こえちゃってるし。新聞も読み終わってしまったよ……アドバイス役の男は相手の反論を受け止めつつ、やんわりと諭すように、さっきと同じようなアドバイスを繰りかえす。相手はまた、だがこの点は譲れないと再度反論する。もはや叱責に近い。だんだん声も大きくなってきた。そしてやっと私のコーヒーが来た。
 早いとこ飲んで帰ろうとずるずる啜っていると、相手の叱責が一段落したタイミングで、アドバイス役の男が場を取りなすようにこう呟いた。
「……たぶん、大元では僕もあなたも一緒だと思うんだ。その後の考え方の違いっていうか……Fateに例えるなら、あなたは衛宮士郎で僕は英雄エミヤ、みたいなもんで」
 えー! そこで例えちゃうの? 例えるなよ! 相手怒るよ!
「……あーなるほど」
 納得なのかよ! 体は剣でできてるのかよ!
 まったく油断も隙もあったものではない。とっととコーヒーを飲み干して退散した。