NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

「セミの鳴き声」は効果音か単なるノイズか

 以前、同僚の帰国子女の人に何気なく「セミって英語でなんて言うの?」と訊いたことがある。あれ、なんだっけなあと思い出せず、わざわざ辞書を引いて“Cicada”っていうらしいよ、と教えてくれた。
 この同僚は物心つくときから社会人になるまでずっとアメリカやイギリスで暮らしていて、未だに日本語よりも英語で話すほうが得意だという人だ。それなのになぜ「セミ」という簡単そうな単語がわからないのかと訊くと、なんでもアメリカにもイギリスにも、セミはほとんどいないんだそうだ。セミっていうのは熱帯や亜熱帯の地域に生息する昆虫なので、日本より緯度の高い国では種類も少なく、小型のものしかいないとのこと。北米大陸には、俗に「周期ゼミ」とか「素数ゼミ」と呼ばれる、13年もしくは17年周期で大発生する種類のセミしかいないという。つまり今年大発生したら、次にセミを見るのは13年か17年後ということになり、しかも大発生するのは一部の地域だけなので、下手すると一生セミを見ることがない人もいるんだそうだ。セミの鳴き声を聴いてやっと夏本番と感じる日本とは大違いである。ちなみに、今年は北米中部で大発生のようだ(→17年ゼミ、米で大発生中 〜素数ゼミの不思議
 えー、ってことは、日本の映画やドラマやアニメなんかで、夏の盛りや夕暮れ時の表現としてセミの鳴き声が効果音で入ったりしてるのも、あっちの人たちにはピンとこないってことなわけ? そういや確かに向こうの映画でこの種の表現って見たことないなあ……と思ってWikipediaの「セミ」の項を見たところ、こんな記述が。

  • イソップ童話の有名な「アリとキリギリス」の話は、本来の南欧である地中海沿岸のギリシアで編纂された原話では「アリとセミ」の話であった。セミは元来、熱帯系の昆虫で、日本より緯度が高いヨーロッパや北アメリカではセミの種類も少なく、小型で迫力がないので、知名度が低い。そのため、より分かりやすいようにキリギリスに置き換えたもので、日本にはこの置き換え版が入ったと言うことである。
  • 同様に、イギリスから北アメリカ移民した人々が、ジュウシチネンゼミ分布地に入植してこのセミの成虫の大量出現に遭遇したとき、驚いた移民達はいったいどういう昆虫なのか理解できず、聖書を紐解き、旧約聖書出エジプト記などに記された蝗害の記事にこの現象を当てはめ、本来の英語でセミを示す cicada ではなく、蝗を意味する locust の語を当てた。そのため、アメリカ英語ではセミを言い表すときに、 cicada と locust の両方の語を使う慣習が生じた。
  • 明治維新の時、日本にやってきたヨーロッパ人はイタリアや南仏などの地中海沿岸地域出身者を除くとセミを知らないものが多く、「なぜ木が鳴くのか」と尋ねたものもいたという。現在でも、日本のドラマを欧米に出すとき、夏の場面ではセミの声を消して送るという。日本ではいかにも暑い盛りのBGMと感じられるが、あちらでは妙なノイズが乗っていると思われる場合が多いという。

 なるほどー。映像ビジネスに関わってる人には常識なのかもしれんけど、へええと思いましたよ。ということは、あっちのゲーヲタの人は『ひぐらしのなく頃に』っていうタイトルの持つイメージもよくわからんのかな。アニメの演出、特に「終わらない夏休みでキミとボクのセカイは夕暮れで逆光の中巨大な塔のシルエットが」的なやつはセミの鳴き声がよく流れてる気がするけど、なんの音だかわからんのだろうなあ。登場人物の内面描写的なSEだと思われてるのかもしれん。
 そういえば、セミとはあまり関係ないが、海外展開をした『ムシキング』が、アジア地域はともかく北米地域であまり振るわなかったのは、あっちでは子供が虫遊びをする風習がないのも一因、という話をどこかで読んだな。