NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

ハロウィンと七夕

 ハロウィンっていつなのかな? 今日なの? 今日なのか。最近は日本でも、子どもたちがハロウィン用の扮装をして商店街をパレードするようなイベントが定着しつつあるらしい。ちゃんと「トリック・オア・トリート」と言ってお菓子をねだったりするのだろうか。
 僕はハロウィンのパレードを見ると、故郷での七夕祭りを思い出す。知っている人もいるかもしれないが、北海道の一部地域(道南、道東地域など)では、ハロウィンとよく似た七夕の風習があるのだ。
 7月7日の夕方になると、小学四年生くらいまでの児童が四五人のグループになって地域の家々を訪ね歩く。正式なスタイルとしては、浴衣を着て、手には小さな提灯を持って歩くのだが、まあそれはほんとうに小さな子ぐらいしかしていない。で、子どもらは家のドアを開け、大声で歌う。地域によって歌詞や節回しは微妙に違うが、僕が生まれ育った町の子どもたちはこう歌っていた。

たけーにたんざくたなばたまつり
おおいにいわお
ローソクいっぽんちょうだいな

 家の人は歌を最後まで聴いたら、子どもたちにローソク一本とお菓子をあげる。子どもたちにとってはもちろん、ローソクはお題目でしかなく、お菓子こそが本命だ。大人もそれはわかっているので、ローソクなしでお菓子だけくれる家もある。子どもたちはローソクとお菓子を持参したビニール袋に詰め、次の家へ向かう。これがだいたい、夜の8時過ぎくらいまで続く。
 団地住まいの子どもたち(僕もそうだった)なら、この七夕の夜だけで向こう一ヶ月以上はお菓子に困らないくらいの収穫になる。この時期にあわせて、近所のスーパーでは子どもたちに配りやすいよう小分けになったお菓子の特売をしていたものだが、少子化の最近はどうなのだろう。
 七夕というとこの行事、というのがあまりにも当たり前だったので、大学進学で上京した年の7月7日の夜まで、これが北海道独特の風習だということを知らなかった。確かレンタルビデオ屋の帰り道、自転車に乗っているときに、初めて違和感を感じたのだ。今日は七夕の夜だというのに、子どもたちが歩いていないし、歌も聞こえない。大学生の一人暮らしなので、金もないしお菓子やローソクを用意するつもりはなかったが、それはともかく、七夕にしては静かすぎやしないか。
 その後、友人たちと話しているうちに、あれは北海道だけの、というか北海道全体でも一部の地域でしかやっていない行事だと知り、えらく驚いた。故郷を離れて一番驚いたことかもしれない。何よりも驚いたのは、札幌など道南以外の地域出身の人にもこの話が通じなかったことだ。北海道ローカルの、さらにローカルな行事だったというわけだ。
 その後、3つ年下の弟が高校の放送部でこの行事に関する番組を作ったというので、取材用の資料を送ってもらったことがあった。郷土史家などに取材したその資料によれば、道南地域で七夕の日に現在のような形での行事を行うようになったのは意外に最近のことだそうで、戦後以降らしい。なぜ、どういうきっかけで始まったのかは諸説あるようだが、はっきりしない*1。ひとつ面白かったのは、子どもたちの歌の歌詞についての考察だ。

おおいにいわお

 この部分、僕は「大いに祝おう」だと思って歌っていたのだが、どうやらこれはもともと

オーイヤイヤヨ

 で、青森・弘前のねぶた(ねぷた)祭りの際のかけ声と関連があるという説だ。Wikipedia「ローソクもらい」の項によれば、

ローソクもらいの習俗が北海道に根付いた説のひとつとして、青森県の青森ねぶた、弘前ねぷたとの関連があげられている。津軽地方では戦前までのねぶたの照明はローソクであったため、ローソクをもらって歩くことが習慣となっていた。深浦町の旧岩崎村地区ではねぶたは大正末期になくなってしまったが、「今年豊年 田の神祭り」などと唱え、家々を廻ってローソクをもらって歩き、旧小泊村(現中泊町)では戦前まで各集落でねぶたを出したが、ねぶたをリヤカーに乗せ「ローソク出さねばがっちゃくぞ」などと言いながら各家を廻り歩いていたなど、北海道で現在行われているローソクもらいの原形を見ることができる。また、「出せ」にはローソクだけではなく「寄付」を寄こせという意味も込められており、これによってねぶた行事の経費としていた。現在、各地のねぶたを曳く掛け声として聞かれる「ラッセ ラッセ ラッセラー」は「ろうそく出せ出せ 出せよー」が、「イッペーラーセー」は「いっぱい出ーせー」が、「ヤーヤドー」は「おー いやいやよー」が語源とされ、それが訛り省略されて現在の形になったといわれており、北海道各地で歌われている歌詞との共通性が見受けられる。

 だそうである。北海道へ渡ってきた東北出身者が、故郷の祭りの習俗を移植したのかもしれない。
 Wikipediaにも採録されているが、歌の歌詞は地域によって違う。僕は小学二年生から数年間、長万部*2近郊で暮らしていたが、そこで歌われていたのは確か

ことーしゃほうねんたなばたまつり
おおいにいわお
ローソクくんなきゃかっちゃくぞ

 みたいな歌詞だった。「かっちゃく」というのは「引っ掻く」の謂いで、これなんかまさに「トリック・オア・トリート」だなあ、と思う。

*1:明治、大正の頃からあった七夕祭りの風習が、第二次大戦期に一度廃れ、戦後になってから地元の商工会議所や子ども会の主導で現在の形になって復活した、と見る説もあるようだ。→http://www.geocities.jp/seijiishizawa/NewFiles/hokkaidou.html

*2:おしゃまんべ。カニ飯弁当が有名。あと由利徹