NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

プレノン・アッシュ配給のウォン・カーウァイ初期作予告編が好きだった、って話

急に思い立ってYouTube検索してたら時間を忘れてしまった。90年代中頃にプレノン・アッシュが配給していたアジア映画の予告編が好きだったのよー。超キレキレにスカしたかっちょよさでね。特にウォン・カーウァイの初期作予告編は非常に印象に残っているのだ。中でも一番好きなのは『欲望の翼』日本版予告編。日本配給は92年。



本編からのカットの選び方、音楽の使い方、台詞のチョイス、字幕の字体チョイスとインポーズのタイミング、そしてタイトルロゴデザイン(とタイトルコールだけの日本語ナレーション)。どれも決まりすぎるくらい決まりすぎで、初めて映画館でこの予告編を見たときから「なんてかっこいい映画がやって来るんだ!」と興奮したものだった。実際、映画本編を見たときも、ぶっちゃけ本編よりもこの予告編のほうが良かったな……、と当時は思ったよ。今改めて見ると、台詞をキャッチコピー的にかぶせてくるデザインは、映画の予告編というよりも(当時の)広告デザインの文脈かなーと思う。



こちらは香港版予告編。比較すると日本版予告編がどれだけ思い入れたっぷりに……というか好き放題に作ってたかがよくわかる。



お次は『恋する惑星』。日本公開は95年夏。日本におけるウォン・カーウァイはこれでブレイクしたよなー。『欲望の翼』予告編よりもあっさり目ではあるが、よりポップでキャッチーに。冒頭の「タランティーノなんて忘れっちまえ!」ってのが時代ですなあ。最後、「僕たちは、恋する惑星に生まれた」っていうキャッチコピーのナレーションの(ほら、キメたぜ……!)感、いいね!(連打)

当時俺は北海道の地方都市在住の高校生だった。地方都市なんでミニシアター系の映画はまずやって来ないわけなんだが、隔月くらいの頻度で映画館を借りてそういったミニシアター系の話題作を上映する会があって、『欲望の翼』はそこで見たわけなんです。94年頃ですかね。で、『恋する惑星』は次の年の夏に部活の全国大会で東京に遠征した折、夜の自由行動の時間に見に行ったんです、今は亡きシネセゾン渋谷でしたっけね。泊まってた宿が神田だったんですが、夜の東京の混雑する電車を乗り継いで、まったく土地勘のない渋谷の雑踏の中を迷いながら映画館に到着したときは感慨もひとしおでしたねー。いやー、ぶっちゃけ映画自体は特に感心するとこはなかったです。「ぴあ」首都圏版を地元のリブロで事前に買って期待を膨らませていたんですがねー。

ところでこの頃のウォン・カーウァイといえばクリストファー・ドイルの撮影とセットで受容されてた感があるけど、『恋する惑星』って前半部分(金城武とブリジット・リンのパート)はドイルじゃなくてアンドリュー・ラウ(『インファナル・アフェア』監督。カメラマン出身)が撮影だったんだね。最近知りました。



そんで最後は『天使の涙』。日本公開は96年。これは流行ったねー。シネマライズのロングラン記録更新でしったっけ? もうここへきて、「物語」を想起させる編集は一切無視! 完全に「なんかキャッチーなとこだけ集めた」感バリバリの開き直りっぷり! ほとんどイメージビデオ!

だがそれがいいの。実際、映画本編もそんな感じで、そこが最高だったのよ。この年俺は大学進学で上京してるんだが、もうあまりウォン・カーウァイには期待していないというか、ちょっとミーハーすぎるわーくらいに舐めてかかってるとこがあった。上京してすぐの頃に見に行って感銘を受けた映画がエドワード・ヤンの『恐怖分子』*1とかクストリッツァの『アンダーグラウンド』とか、川崎国映まで遠征して見た『0課の女 赤い手錠』『女囚さそり けもの部屋』とか、テアトル東京のピンク映画四天王オールナイトで見た瀬々敬久の『課外授業 暴行(羽田に行ってみろ そこには海賊になったガキどもが今やと出発を待っている)』とか、まあなんていうんですが、ビッキビキにガン決まりでシャープなやつとかカロリー超高い映画ばかりだったので、『天使の涙』は軽くて薄そうだなーという感があり、結局見たのはもう上映終了間際の時期だったと思う。

で、予想通り軽くて薄くて中身がない映画だったが、ぶっちゃけこの三本の中では一番好きになった。このねー、キャッチーでキラキラしたとこだけ集めて一本作りました感、最高ね。イメージビデオ上等ね。「映画として」のフォルムとか、あるいは物語とか、そんなのどうでもいいねという開き直りが異様な多幸感を生んでいるのね。端的に言えば圧倒的に若くて、世界に対する根拠のない万能感に満ちている。こういうのは若い奴らにはざっくざく突き刺さるんだが、同時に「あ、こういうのでいいんだ」的開き直りツールになっちゃうので、おかげでこの時期の大学映研自主製作映画シーンでは『天使の涙』予告編みたいなイメージ(だけ)をつなげた(に過ぎない)映画がすごいたくさんあったように思うよ。

まあでも、予告編もさることながら、プレノン・アッシュの邦題の付け方もかなり「……キメてやる……ぜ……!」感が溢れてていいよね。眩しい。『阿飛正傳』が『欲望の翼』、『重慶森林』が『恋する惑星』、『堕落天使』が『天使の涙』ですからね。特に『恋する惑星』、この原題からのジャンプ率の高さは尋常ではない。なにせプラネット、ギャラクシー級の飛び越えだ。これはねー、この邦題だからのブレイクだとすら思うね。超いい仕事。俺もあやかりたい。あんまりこの一連のやりたい邦題っぷりにあてられたか、別の配給会社でも『東邪西毒』を『楽園の瑕』にしてるしね(これはちとやり過ぎ感ある)。

プレノン・アッシュ配給作のかっちょいい予告編、カーウァイの他にはツァイ・ミンリャンの『愛情萬歳』がすごく印象的な予告編だった記憶があるが、これは探しても見つからなかった。あれもう一回見たいなー。まあそんな感じで、いろいろ思い出しながらダラダラ書いたよ。


*1:ところで、『WXIII 機動警察パトレイバー』の終盤、部屋に入ると亡き愛娘の壁一面に拡大した写真が……っていうシーン、『恐怖分子』からの引用というかイタダキだよね?(イタダキというと人聞きが悪いか) 部屋に吹き込む風で写真がはためくとことか……。