NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

『ハードコア』/ “あの頃” のFPSのように

こちらもすでに上映は終了してると思うけど、感想を。4月頭くらいに見ました。

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「全編主観視点、まるでFPSFirst Person Shooter)のようなハイテンションの銃撃戦が繰り広げられる新感覚アクション映画」という鳴り物入りで去年あたりに話題になった……という話だけネットでは聞いていて、たぶん日本ではDVDスルーかなと思ってたら劇場公開されたので驚いた。

 

 

というわけで見に行きました。以下、あらすじ。

 

どことも知れない研究施設で目覚めた男。記憶は全くない。科学者らしき美女・エステル(ヘイリー・ベネット)が現れ、男の名前は「ヘンリー」で自分は彼の妻なのだと言う。エステルは自分の研究を応用し、何かの事故により大きく損傷したヘンリーの身体を治療しているのだ。欠損した腕と脚を機械の義肢に付け替え、次は声帯の再生手術を……というところで謎の組織が研究施設を強襲、サイコキネシスを持つリーダーのエイカン(ダニーラ・コズロフスキー)によりエステルは拉致されてしまった。正体不明の協力者ジミー(シャルト・コプリー)に導かれ、ヘンリーは機械の身体のスーパーパワーを駆使し、満身創痍になりながらエイカンを追う……!


プロデューサーにティマール・ベクマンベトフ(『ナイト・ウォッチ』)が付いているが、監督のイリヤ・ナイシュラーはこれが長編第1作目の新人。というか本職はパンクバンド「バイティング・エルボーズ」のフロントマンという人。で、同バンドの曲「Bad Motherfucker」のPVを彼自身が手掛けたわけだが、これが全編主観視点のバイオレンスで一躍全世界的注目を浴びる。というわけでこのノリでいっちょ長編劇場映画を作ろうぜ! とやったのが本作。

撮影は全編Go Proで行ったとのこと。私は酔わなかったが、走ったり跳んだりしてるときの細かなブレもあまり調整せずにそのまま使っているので、ダメな人は本当にダメだと思う。

 

POV映画で、主観視点人物がとにかくひどい目にあいながらひたすら逃げるのをほぼノーカット(風味)で描く、という感じの作品はいまやとても多い。この作品も手法としては同じなのだけど、POV映画のようにカメラの前で「ハプニング」が起こることの映画的衝撃を効果的に使うタイプではなく、まさにビデオゲーム風、つまりFPSのシングルプレイモード的な、プレイヤーの目の前でイベントが発生して進んでいくタイプの語り口になっている。あーつまりあれだ、前者はひとまず「ドキュメンタリー」を偽装しようとするけど、後者は「物語」を語ることを隠さない。そんなわけで、とてもゲーム的な映画と言える。

が、“全編主観視点のバイオレンスアクション” という一発ネタ以上のものになっているかというと諸々足りてないというのが正直な感想だし、ゲームファンの立場から言わせてもらえば「主観視点・目の前で起こるイベントとアクションで駆動する物語」としても00年代後半から10年代初頭にかけて数多のFPSで模索されたこと以上のものを見せてくれるわけではない。感覚的な話をすれば、2009年頃の、AAAクラス「ではない」、メタスコア70点台のFPSのような感じだ。

 

でもね、このボンクラ濃度の高さはやはり憎めない。

特に、予告編でも使われていたQueenの「Don't Stop Me Now」が流れるシーン、あの曲のメロウでスロウなイントロが流れ始めた瞬間に観客のほとんどが「あーこれがやりたかったんだなお前は!」と了解してしまうあの感じ、あまりに有名な曲のため、このスロウなイントロのすぐ後にアップテンポにブチ上がることを当然観客は知っていて、つまり今スクリーンではスローモーションで危機が描かれているがそれが数秒後にはどうなるのかを観客は未来確定的に了解してしまう、例えるなら電気ケトルで少量のお湯が沸騰するのを待っているごく短い時間のようなもので、そしてそれは全編主観視点のこの映画においてはイコール主人公の情動になっている、まさにあらかじめ約束されたカタルシスへと向かう一瞬の平穏……というあの瞬間は素晴らしい。できればそこで終わってしまって良かったのでは、と個人的には思ったりするのだが……。

あと、ヘイリー・ベネットがとってもエロい映画でした。