NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

完全犯罪

八嶋智人みたいな嫌味な上司に丸め込まれ、彼の若い愛人を交通事故に見せかけて殺害する工作を手伝う。

具体的な計画はこうだ。上司が愛人と一緒にいるマンションに俺が潜入する。そのマンションは上司が愛人に買い与えたものなので鍵の心配はない。スペアキーを使う。不意を突かれた愛人に俺は襲いかかり、彼女の下腹部を殴ったり蹴ったりして昏倒させ、峠の国道に運んでカーブのところのガードレールに引っ掛けておくのだ。トラックがカーブを曲がるとき、引っ掛けた愛人を巻き込んでくれるだろう。交通事故として処理されるはずだ。痣が残る顔ではなく下腹部を殴ったのはそのためだ。愛人をガードレールに引っ掛けて放置したのち俺と上司はすぐ東京に帰ってアリバイを作っておく。いきつけのバーとか小料理屋で。

緻密に練られた、完璧な計画のはずだった……そう、女がわりとすぐに目を覚まし歩いて家に帰らなければ。

 

数日後、件の峠での事故のニュースが一向に流れてこないので俺は不安になっている。が、八嶋智人の上司は「きっとトラックの運ちゃんが轢き逃げしてまだ発見されないんだろう」と妙に楽天的だ。大きな商談がまとまり、高級クラブで取引先を接待していると、とうに死んでいるはずの愛人がなぜか男装の麗人となって颯爽とフロアに登場する。八嶋の悪行を、密かに撮影していたセックスビデオのプロジェクター上映を交えながら、取引先のエグゼクティブ(ケント・ギルバート)に訴える。だがその訴えは激昂とは程遠く、流麗かつ要点を押さえた優れたプレゼンに似ていた。

泣き叫び、己が破滅を嘆く上司。俺も店の隅でぶるぶる震えていたが、愛人のプレゼンではなぜか俺が殺害計画に加担したことには一切触れない。それが逆に不気味で、俺は耐え切れなくなってその場を逃げ出し、家に帰ってベッドに潜り込む。妻は一週間前に出て行った。ベッド以外の全ての家財道具を持って。あまりにも空虚な部屋の中、俺はベッドの上で震え、失禁しながら、あの女が、そういえば若い頃の小松千春にそっくりなあの上司の愛人が、白いピンストライプのダブルのスーツにポマードでオールバックに固めた髪という出で立ちで、ごく当たり前のように俺の部屋のドアを開け、華麗なステップを響かせながら革靴のまま上がり込み、俺を肉体的もしくは社会的に抹殺するその瞬間を、ただじっと待つしかなかった。

 

というところで目が覚めた。変な時間に寝てしまったからだ。

 


BARBEE BOYS あいまいtension

 

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