NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

ドリーマーの歴史、ダンジョンの歴史

 以前ちょっと触れた本、ブラッド・キング、ジョン・ボーランド『ダンジョンズ&ドリーマーズ ネットゲームコミュニティの誕生』をこないだ読了した。テーブルトークRPGダンジョンズ&ドラゴンズ』から始まり、“仮想の世界を構築すること、そこに大規模なコミュニティを作ること”に魅せられたロード・ブリティッシュことリチャード・ギャリオットのエピソードを中心に、『DOOM』や『Quake』の大流行、そしてLANパーティーで築かれる独特のゲーマーコミュニティなどについて書かれたノンフィクションだ。
 最近、コンピュータやゲーム業界の黎明期を描いたノンフィクションを好んで読んでいるからというのもあるが、それを差し引いても、とても面白い本だと言える。特にリチャード・ギャリオットの青年期からオリジン・システムズの設立、その後EA傘下に入るまでを描いた第一部は、欧米におけるPCゲームの黎明期〜オンラインゲーミング前夜までの雰囲気が生き生きと描かれ、読んでいてわくわくしどおしだった。
 反面、「プレイヤーの時代」と題された結びの第三部は、現在のオンラインゲームコミュニティーの概況を急ぎ足でまとめただけのものに見えて物足りない。ちょっと楽観的すぎるきらいもあるし。
 そういった不満点がなきにしもあらずだけど、PCゲームの歴史やオンラインゲームとそのプレイヤーたちのコミュニティに興味のある方には是非ともお勧めしたい本だ。

ダンジョンズ&ドリーマーズ

ダンジョンズ&ドリーマーズ

《関連リンク》
・Radium Software Development 040112 - Dungeons & Dreamers 感想文。
・こどものもうそう 感想文その1/その2
ゲーマーたちの「ゲーム的生き方」を明かす新刊書 HotWiredの紹介記事。


 ところで、私は77年生まれでファミコン直撃世代なため、ずーっと家庭用ゲーム機の文化圏でゲームをしていた。そのため逆に、PCゲームの昔の話をする人をちょっと羨ましい気持ちで見ている。そこには私が知らない当時の空気、文化があるからだ。私よりちょっと年上の人の書いたものや話を見聞きして、往時のパソコンやMSXでのゲーム体験やそのコミュニティに思いをはせるのがけっこう好きだ。
 そういう個人的な嗜好もあって『ダンジョンズ&ドリーマーズ』は面白く読めたのだけど、この本がPCゲームの歴史における“ドリーマー”たちの世界を描いたものだとすれば、ダンジョンのように暗く淫靡で怪しい世界を描いた本もある。


 クーロン黒沢マイコン少年さわやか漂流記』。実は去年の春先に読んで面白かったので、ここで紹介しようと思って忘れていた本だ。UG/暗黒裏モノ系のPCライターとしてある種の一時代を築いた後、今度は暗黒アジア旅行関係の方面で知られるようになった著者の、1980年代初頭「マイコン少年」暗黒半生記とでもいうような内容で、もちろんぜんぜん「さわやか」ではない。とは言ってもこの著者一流の責任感ゼロに書き流した「あーメンドクセー」感に満ちた文章(真似するのは簡単に見えて難しい。個人的には名調子だと思う)のおかげで、過剰にドロドロしたものにはなっていない。
 副題が「コピーできるなんて、知らなかったよ……」であることからも窺い知れるが、著作権とかそういうのがまだ存在しなかった(?)頃のパソコン黎明期にゲームに魅せられた黒沢少年が、やがて「マイコン」業界周縁部の怪しげな人々と出会い、コピーしたり、草の根ネットを運営したり、自主制作のゲームを売って一儲け企んだり、コピーしたり、ヨーロッパから取り寄せたアミーガのクラックソフトに入っていたメガデモに魅せられたり、高校をズル休みして香港でマジコンを買ったり、そしてまたコピーしたり……といった調子で、正史には載らない当時の状況が(幾分かの誇張もあるかもしれないが)体験的に綴られる。もうこうなるとまったく知らない世界の話なので、めちゃくちゃ面白く読んだ。
 特に面白かったのは自主制作のゲームで一儲け企むくだり。だってこんななんだもの。

 これから自力でエロゲーを作るのは常識的に不可能だが、常識を持たない男に恐れるものはない。


「ああ!。だったらシナリオは適当に! 面倒臭いから全部で三場面! さて絵は……絵だけは無理だ!」(中略)
 でも、作らないと借金返せねえんだよ! と考え悩んだ挙げ句に出た結論とは……。


「市販のエロゲーから、ストーリーに合った絵を適当に引っこ抜いて使う」


 という、どの角度から見ても違法な反則技であった。都合のいいことに使えそうなエロゲと、市販ソフトから絵だけ引っこ抜くソフトが自宅に転がっていたのもなにかの縁だろう。
 結局、そのへんの適当なエロ絵を無断でひっこ抜き、三回コマンド入力するとハッピーエンド……。というオールBASICの犯罪ゲームを書き終えたのは、作り始めて僅か四時間後のことである。
 結局エロゲーのほうは「ウルティマ」に敬意を表して「ウラテマ」と名付けた。疲れた。

 おお、こんなところでリチャード・ギャリオットと繋がった!(そんなことはない)
 まあこんなノリなので、私は面白く読んだが万人にはちょっとお勧めできない。でも気が向いたら、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』とあわせて読んでみるのも一興だと思う。

マイコン少年 さわやか漂流記 (秋葉趣味)

マイコン少年 さわやか漂流記 (秋葉趣味)

《関連リンク》
Radium Software Development 030504 - さわやか漂流記 感想文。『ダンジョンズ〜』のほうでもリンクしたけど、このサイトの日記(というよりコラム)は愛読しています。
告知君ver2 クーロン黒沢氏のサイト。本書で没になった画像も拝めます。