NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

遅延装置 『カオスフィールド』

 10月の初旬のこと、よく行く駅前のゲームセンターからとうとう『カオスフィールド』が撤去されてしまった。ハイスコアランキングは入荷して一、二週間ほどから最後までほとんど変動がなかったはずだ。あまり栄えているとは言えないわが町のゲームセンターに通う数少ないシューターにさえほとんど見向きもされず、『Quest of D』の入荷に伴う店内のレイアウト変更の際に押し出されるかたちでお役ご免と相成った。さようなら『カオスフィールド』。君のことは、今でもちょっと気になったままだ。


 このゲームとの個人的な出会いは悪い意味で印象に残っている。何かの飲み会のあと、ほろ酔い加減でゲームセンターに入り、新入荷のこのゲームを見つけたのだった。とりあえず新しいものには触ってみたがるほうなので、さっそくコインを投入。オープニングのデモループだったので飛ばそうと思いスタートボタンを押すと……暗転したままハングアップしてしまった。
 BGMだけは鳴り続けているのでしばらく気づかなかったのだが、1分近くたっても黒いままなので店員さんを呼んで再起動してもらった。コインを飲み込まれたことは何度もあるが、ハングアップしたのは初めてだったので面食らったものだ(あとで2chなどを見たら同じような症例が複数あがっていたから、再現性のあるバグだったのかもしれない)。
 そんなわけで第一印象はあまり良くなく、ゲーム自体も何をどうすればいいのかよくわからないまま終わってしまったので、正直言ってあまり「面白い」とは思わなかったし、今もその評価は基本的に変らない。
 それなのに、撤去されるまでの何ヶ月か、それなりの額のコインを投入して遊んだのは何故なのか。シューティングの新作にあまりにもインカムが少ないと、この店での新作の入荷がなくなってしまうかもしれないから、という変な義務感・危機感がほんのちょっとあったのは事実だけど、それとは別に、このゲームにはいわゆる「ゲームの面白さ」とは別の次元で、個人的に魅かれる部分が確かにあったのだ。難しいけれど、そのことについて説明してみようと思う。


 『カオスフィールド』はマイルストーンから発売された1レバー3ボタンの縦スクロールシューティング。NAOMI基盤だ。12月にDC版の発売が予定されている。Aボタンでショットを撃ち、Bボタンで敵弾を消すことができるソードを振る(消せない弾もある)。ここまではわりとよくあるシステムだが、このゲームの最大の特徴ということになっているのがCボタンによって発動するフィールドチェンジだ。通常は難易度が低い「オーダーフィールド」を進むことになるが、フィールドチェンジをすると難易度が高い「カオスフィールド」に移行する。オーダーフィールドとカオスフィールドでは同じ敵でも攻撃のバリエーションが違い(当然、カオスフィールドのほうが激しくなる)、特にソードで消せない弾の量がぜんぜん違ってくる。そのかわり、カオスフィールドでは自機の攻撃力があがり、A+Bボタンで発動する特殊バリアやB+Cボタンで発動するロックオン攻撃の使い勝手もぐっとよくなる。
 ゲーム展開は『レイディアント・シルバーガン』などに近い、「ボス百連発」的なものになっている(そんなには出ないが)。1ステージがいくつかのフェーズに区切られていて、各フェーズで巨大ボスと対決していくことになる。ザコ敵が出てくる、いわゆる「道中」を排除し、激しく派手な「対ボス戦」に特化しているところも特徴のひとつだ(派手といえば派手だがワンパターン気味で、途中でマンネリ化してしまうのが痛いんだが)。
 ただ、この「フィールドチェンジ」と「対ボス戦特化」という2つの特徴が、このゲームをものすごくとっつきの悪いものにしている。ごく普通に考えて、ゲームに慣れないうちは難易度の低いオーダーフィールドで進むべきだと思いがちだが、オーダーフィールド時の自機の攻撃力は本当に低いので、いたずらに長期戦になってしまう。敵は「ボス」タイプのものばかりなので、シューティングのセオリーに則っていくつかの破壊可能パーツと砲台を持っているのだが、そのパーツと砲台がとてもわかりづらい(エフェクト不足)。どこを撃てばいいのか、どこから撃たれているのかが初見ではさっぱりわからないのだ。オーダーフィールド時の攻撃力の低さがこれに拍車をかけ、こちらの攻撃が効いているのかどうか不安になってしまう。さらに致命的なのは、自機が被弾したときのエフェクトがえらく地味なため、気がついたらゲームオーバーになっていることが多い(自機が爆発するエフェクトが入るのはゲームオーバー時だけで、被弾時はちょっと光るだけ)。
 これらが合わさって、初めてのプレイのときは「なんかいきなりやたら硬くてでかい敵が出てきて、特に盛り上がりもなく、気がついたら終わっていた」という感想を抱きがちで、そのまま投げ出す人が多かったのではないだろうか。
 しかしまあ、アーケードのシューティングゲームでライトな初心者プレイヤーのことを気にしてもしょうがないのかもしれない。「対ボス戦特化」が悪い方にはたらき何ともメリハリを欠いた展開になっているものの、上記のとっつきの悪さもシステムをちゃんと理解してから臨めば感じないだろう。
 とにかく特殊攻撃用のゲージを溜めたらカオスフィールドに移行し、威力の上がった通常ショットを撃ちこむ。敵が弾幕を吐いてきたら特殊攻撃のロックオンで打ち消し、ヒットコンボを稼ぐ。私はかなり下手なプレイヤーだけど、たぶんこれが攻略のセオリーだと思う。これでだいぶ楽になるし、それなりに楽しくもなる……はずだ。
 ポイントはカオスフィールド移行時のロックオン攻撃にある。オーダーフィールド時のロックオンは、ごく普通に敵の破壊可能パーツだけをロックオンする武装だ。しかしカオスフィールド時にはなんと敵弾までロックオン可能になり、一斉放射されたロックオンレーザーで弾を打ち消すことができるのだ。おお、これはなかなか燃える演出じゃあないですか! 『爆裂無敵バンガイオー』なんかを思い出しますね。
 このフィーチャーは確実に本作の大きな売りで、稼動前にマイルストーンのサイトで公開されたデモムービーでもこれでもかとばかりに押し出していた。ただ、ひとつ大きな欠点があって、ロックオン攻撃時の処理落ちが半端ではなくひどいのだ。これは一般的なシューティングのような、弾幕避けに役立つ処理落ちではない(なにしろロックオンすれば避けるまでもなく弾幕は消滅するのだから)。弾避けをしているときの一瞬のスローモーションはプレイヤーに高揚と陶酔をもたらすが、自機の放ったレーザーが多量の敵弾を打ち消すさまを眺めているときのスローモーションは何とも言えない間の悪さを感じさせる。派手だが、テンポが悪い。あるときロックオン時の処理落ち中に消せない弾にあたってゲームオーバーになったことがあったが、コンテニューのカウントダウンまで処理落ちしたのにはさすがに呆れた(ボタンを連打しても反応しない)。


 このようにいろいろと辛いところがある本作だが、それでも私はなぜだか気に入っていた。どこが? あの激しい処理落ちがだ。いつの間にかあれが、妙に心地よくなってきていた。なぜ?
 それを説明するために、いきなりだが話をそらす。『マトリックス』以降、激しいアクション中に極端なスローモーションとアクロバティックなカメラの移動をからめた演出が雨後の筍のように各種映像表現で使われるようになった。
 アクション中のスローモーション自体は、激しい動きを逆説的に誇張する表現としてすでに使い古されていたものだったが、『マトリックス』のバレットタイムによって観客が知った映像の新たな快楽とは、つまるところ「自分がこの映像の時間・空間を支配している」かのような全能感だったのではないだろうか。主人公に向かってくる銃弾や敵の拳はすべて見え、カメラは激しい戦いを繰り広げる人物のまわりをぐるぐると旋回する。充分に戦いの図を堪能したら、また元のスピードに時間の流れを戻す……ビデオのスロー/再生切り替えに、ポリゴンモデルの鑑賞シーンをくっつけたかのような映像は、たぶん観客に「見る」のではなく「操作する」のに近い感覚をもたらしたはずだ。
 観客にとって映像内の時間・空間は絶対的なものだ。受身で鑑賞するしかない。このシーンを違う視点でスローモーションにして見てみたい、なんていう欲望はかなえられない。だがそこであたかも自分が操作しているかのような映像を見せられたとき、観客は擬似的に欲望を遂げることができる。
 ビデオゲームも映像のメディアのひとつだから、やっぱりバレットタイム的な表現はたくさん出てきた。ただしこっちは昔から「実際に観客=プレイヤーが操作している」メディアなので、「任意に時間の流れを変えられる」ことにフォーカスした表現が主だった。『マトリックス』以降でこれを一番最初にやったのは何かな? やっぱり『マックスペイン』だろうか。ハードボイルドなサードパーソンシューターである『マックスペイン』において、バレットタイムはボタン一発で出せるスローモーションスキルだった。バレットタイム発動中はゲーム内のすべての時間の速度が遅くなり(プレイヤーキャラクターであるマックス・ペインの動きも当然遅くなる)、しかし照準の操作とトリガーボタンだけは通常時と同じスピードで受け付けてくれるので、阿鼻叫喚の銃撃戦の中、避けきれずに何発か喰らいながらもその倍の鉛玉をチンピラどもにぶち込む、というヒロイックなシーンを好きなときに演出できる。ゲーム側があらかじめ用意した操作不可のデモ演出ではなく、プレイヤーが好きなときにボタン一発で発動できる、あたかもデモムービーのようなシーンだ。


 『カオスフィールド』の処理落ちを個人的に心地よく感じる理由は、私がそこにバレットタイム的なものを見てしまっているからではないだろうか。ああ、もちろんこれは個人的な妄想の類だ。『カオスフィールド』の処理落ちはバレットタイムのように意図的に仕組まれたものではない(と思う、たぶん。処理落ちも計算に入れて弾幕のバリエーションを考えていたとしても、計算以上に処理落ちしてると思う。だいたい処理落ち中に被弾すると復活後の無敵時間「だけ」は現実の時間と同じ速さで消費されるんだ。つまり処理落ち中のほとんど自機を動かせない間に無敵時間が切れて、そのまま再度被弾したりするのだこれが)。特にこれといったメリットはないし、デモムービーみたいにかっこよく見えることもあるけど、別にプレイヤーはそれを好きで演出しているわけではない。結果的にそう見えるだけだ。
 でも、ボタン一発(正確には2個同時押しだが)で、任意に(というか不可抗力的に、か)、プレイヤーキャラクターを含めたゲーム内のすべての時間の流れを遅くさせる、という行為には、何か「そのゲーム自体の面白さ」とは関係ない次元での愉快さがある。NAOMIががんばって処理し、整合性を保っているこのゲーム内の時間の流れが、プレイヤーの1アクションによってあっけなく遅延してしまう。そのダイナミズム。最終的にはプレイヤー=自分がこの時間を支配しているという全能感。
 他の弾幕シューティングの処理落ちが、それさえも計算に入れたゲーム側からプレイヤーへの救済措置だとすれば、『カオスフィールド』におけるロックオン時の処理落ちはプレイヤーからの示威行動だ。救済などなくても、私はすでに支配している。そういった類の、意地が悪いけれど愉快な優越感。
 ゲーム内に仕組まれていないフィーチャーを、プレイヤーが想像=創造する。とか言うと我ながら頭おかしいと思うが、『カオスフィールド』の処理落ちに私が魅かれるのは、そういうことなんじゃないかと思う。


 ああ長くなった。こういう個人的で漠然とした「面白さ」を説明するのは疲れる。しかもうまく伝わっている自信がない。難しいなあ。

カオスフィールド

カオスフィールド