NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

我らの夏にティーソーダを

 もう、ティーソーダが好きで好きでしょうがない。好きすぎる。初めて飲んだのは1994年、高校生の夏のこと。リプトンの「リプトニック ティーソーダ*1という聞き慣れない缶飲料が学食の自動販売機に入った。試しに買って飲んでみたら、濃いめのレモンティーに強烈な炭酸という、初めての味わいにのけぞった。まわりの人たちは口々にまずいと貶したが、僕には本当に美味しく感じられたんだ。だからその夏はずっとティーソーダばかり飲んでいた。
 でもやっぱり世間的な評判は悪かったらしく、すぐに学食の自動販売機には入らなくなった。家の近くのコンビニでも入荷しなくなり、誇張じゃなしに市内を探し歩いたこともあった。
 同時期にリプトン以外のメーカーからもティーソーダが出ていたが、そっちはちょっと甘みが強すぎたので好きではなかった。友人たちと入り浸っていた喫茶店のメニューにもティーソーダがあったが、こっちのほうはちょっと完成されすぎた味で(まあ、100円の缶飲料と、その場で作る500円のメニューでは、味の違いは確かにあるのだ)、トンガり方が足りなくてやや不満だった。そう、ティーソーダは単なる炭酸入りレモンティーだが、その頃の僕にとってはどんな飲み物よりもアグレッシブで、危険な味がしたのさ! アグレッシブ飲料・ティーソーダ
 最終的に僕が確保したティーソーダの供給先は、駅前にあるデパートの駐車場わきの自動販売機で、自宅から自転車で30分ほどかけて、ダラダラ汗を流しながら買い溜めしに行ったのだった。とにかく、半ば中毒だった。
 当時創刊されたばかりの「GON!」で「まずいジュース選手権」みたいな記事があって、そこでティーソーダは堂々の一位に輝いた。だが悔しくはなかった。世間の人たちの無理解に憤ったりもしなかった。なぜなら、みんなが「まずい!」と非難すればするほど、僕自身のティーソーダの味に対する愛着は増していったからだ。まるでカルトの信者が世間から非難されればされるほど、自分の信仰の正当性を、より深く、のっぴきならないところまで信じこんでしまうように。
 だから、デパートの駐車場わきの自動販売機からもティーソーダがなくなったとき、本当に、自分でも意外なほどの喪失感に襲われた。駅前で何かの映画を見た帰り、夕方のことだった。家に帰り着いてから、大学ノートに4ページくらいびっしりと、ティーソーダに関する一夏の思い出みたいのを書き連ねた。
 あれはいったいなんだったのだろう、と今では思う。今まで28年生きてきて、ただの缶飲料にあれほど心を奪われたことはなかった。たぶんこれからもないだろう。だって、単なる100円の飲み物だ。大学ノート4ページ分の「何か」がそこに詰まっているとは、少なくとも今の僕には思えない。おかしかったのだ。あの頃はどうかしてた。
 「リプトニック ティーソーダ」は姿を消したが、ここ何年かはより一般的なフレーバーに改良されたティーソーダが、夏になるとコンビニの棚に並ぶ。強烈な炭酸は微炭酸になり、味も薄まった。それなりに飲みやすいので、あの頃ほど拒絶反応を示す人も少ないだろう。
 なによりも大きな違いは、缶ではなくビンに入っていることと、僕がもう高校生じゃないことだ。もうアグレッシブ飲料だなんて、間違っても言えない。

リプトンスパークル レモンティーソーダ

*1:07.06.13追記。長いこと「リプトニック」と思いこんでいたが、実は「リプトンアイス」だった……。ロゴがワンワードになってたので、勘違いしていたらしい。http://allabout.co.jp/gourmet/junkfood/closeup/CU20030502A/