NGM+その他の欲望

Nightcap Gamer's Memopad, そしてその他諸々についてのサムシング。

ユーザー語としての「仕様」をめぐって



 先日書いた「『すぐにけせ』の謎と『不可解なバグ』について」http://d.hatena.ne.jp/msrkb/20050425/sugunikese)にちょっと関連して、また君か。@d.hatenaで、開発者ではなくプレイヤーが使う言葉としての「バグ」「仕様」について考察があった。
・また君か。@d.hatena: オタ語としての「バグ」と「仕様」の経緯 のメモ
 こういった、開発のテクニカルタームが一般化することで元の意味とは微妙に違ったニュアンスが生まれる→その言葉をめぐって開発(というかゲーム業界)側とプレイヤー側に別の文脈が生まれる、っていう流れは、まあいろいろ面倒くさいこともあるけど面白い。こないだの記事の後半で私が言いたかったのは、プレイヤー側の言葉としての「バグ」が、本来の意味を逸脱して「(プレイヤーにとって)よくわからないもの・こと」をも含むようになっている、そしてそれは「漠然とした不安」を物語として固定化するのに都合のいい怪談(都市伝説)という形式と親和性が高いんじゃないかなあということだ。もう本来的な意味でのバグとはぜんぜん関係ないので、カギカッコ付きの言葉として「バグ」と書いておいた。
 プレイヤー側の言葉……「オタ語」としての今までの流れは頁作さんがすっきりまとめているメモに同意。今後、プレイヤー側の言葉としての「バグ」がどういうふうに意味的な進化/深化を遂げるのか、興味深いところ。
(余談だけど、こないだの記事はいくつかの個人ニュースサイトやBlogで取り上げられてやたらとアクセスがあった。あの記事で触れた「怪談」の流通に、このサイトがほんの少しは寄与できたのかなあと思うと、怖がりだけど怖い話大好きっ子としては嬉しい)


 ところで、また君か。@d.hatenaの考察でとりあげられているもうひとつの言葉、「仕様」について、「仕様という用語がプレイヤに一般化した契機ははっきりしていて、バーチャの大会でのアクシデントに関する有名プレイヤと開発者の遣り取り上でのことだったんだけど、正確なソースがネットに転がってないかなーと思って検索。伝聞形だけどいちおうそれらしい証言がみつかった。」とのことで2chのレスを引用されてますが、大塚ギチ『東京ヘッド』にその事件に関する記述があるので引用します。手元にあるのは2000年に美術出版社から刊行された新装版。件の事件はP.99からP.103にかけて、こう記されています(「※2」「※3」という部分は、引用元の本では脚注)。

 1994年5月。


 なにかが身体の奥底で大きなうねりをあげている。それがなんなのか自分でもわかっていた。それは「思い」だ。あの日燃焼できなかった「思い」がくすぶっているのだ。


 ライブUFO『バーチャファイター』トーナメント大会の第1次予選1回戦で、篠原元貴は吉嶺豊彦と戦うことになった。ふたりはスポットで何度も顔を合わし、何度も戦っていた。はじめは負け越していた篠原も、最近ではほぼ互角といえるほどに腕を上げてきた。


(中略)


 いくつかの攻撃が交わされた。大ダメージになる攻撃こそないものの、息を飲む戦いが続いた。先に決定的な打撃を与えた方が試合の「流れ」を掴むことを本能的に感じ、次第に会場中が静寂に包まれていく。その瞬間、ウルフが攻撃をかわし、一瞬の隙を突いてサラの両腕をハッと掴んだ。


 「わあああああ!!」


 会場が沸いた。押し込められていた空気が風穴から一気に吹き出すかのように、大きな歓声が上がった。スプラッシュマウンテンのコマンドが入ったのだ。サラの身体を高らかに持ち上げ、武舞台に叩きつけるウルフを眺めながら、篠原は自分が「流れ」を手中におさめたことをたしかめようと、右手を高らかにかかげ拳を握ったが、実際には振り上げたその手のなかに「流れ」はなかった。
 襲ってきたのは不安ではなく、真っ白い、沈黙という時間だった。篠原の手のなかには「流れ」だけではなく、「感触」すらなかった。あのいつもの、相手にダメージを与えたときに感じられる、目に見えない心地よいしこりのようなあの「感触」がないのだ。目は即座にサラのバイタリティゲージをたしかめていた。そして唖然とした。技が、スプラッシュマウンテンが決まったにもかかわらず、相手の体力は減っていなかった。(※2)


(中略)


 「開発者どこだ畜生!」(※3)
 篠原はステージ上から大声で怒鳴り声を上げた。それが開発者の手の届かない、数字の配列が生み出した偶然の出来事であることくらいわかっていたが、それ以外にこの怒りを向けるべき矛先は見つからなかった。(後略)


※2 スプラシュマウンテンが決まったにもかかわらず、相手の体力は減っていなかった かなり珍しいタイプのバグだが、これに対して会場に居合わせたセガAM2研の片桐氏は「仕様です」とあっさりコメントし、以後プレイヤーのあいだでこの言葉がブームになった。
※3 開発者どこだ畜生! このセリフも以後、プレイヤーの間では語り草になった。

 もちろん私は実際にこの場にいたわけではないので、大塚ギチのこの記述がどの程度正確なのかはわからない。「これに対して会場に居合わせたセガAM2研の片桐氏は「仕様です」とあっさりコメントし」とあるけど、それは誰が聞いたのか(ステージで発言したのか?)、この記述だけでは不明だ。
 ただ、この「仕様」という言葉がプレイヤー側の言葉として一般化した(とされる)瞬間の記述としては、かなり詳しく書いてあるもののひとつなんじゃないかな、と思う。『東京ヘッド』という本自体は、あまりにも同時代的過ぎて今読むとどう反応していいか困る部分もあるけど。


 他にも同時代的な記述として、例えば雑誌の記事なんかがあるともっと詳しく状況がわかるかもしれない。お心当たりのある方はお願いします。


※05.05.13追記
 コメント欄でdotimpactさんとhallyさんからご指摘があったので、記事に追記します。
 dotimpactさんのコメント。

新明解ナム語辞典に「仕様」の項がありますな。

しよう【仕様】(名)製品の性能、特徴を表すもののうち、「企画どおり」のもの。
企画では存在しないはずの特徴は仕様とはならない。ただしナムコでは、開発中に発見され、かつゲームに差し支えない場合は、3つまで仕様といってもよいことになっている。

プログラマのネタタームとしてはこういう認識がわりと一般的だけど、この項は用例がないからこれだと小学生は使うようにならないなー。

自分は「仕様」をいつ使うようになったかな、就職する前からだったかなあ?

 hallyさんのコメント。

中学生くらいなら使ってましたよ。

「それはバグではなく (ドキュメントに記載されていない) 仕様である」という言いまわしの起源はIBMにあります。これはメインフレーム時代からなかば都市伝説的に語られていた通称「IBMポリシー」で、パソコンユーザーたちの間でも早くから知られていました。1980年代後半になるとIBM以外のメーカも同じようなことを言いはじめるので、日本でも聞く機会が増えます。そういうわけで、パソコンに親しんでいるようなゲーマーは、1990年代初頭には「仕様」という言葉を使いはじめていました。何をもって一般化と呼ぶのかが問題ですが、私はバーチャファイターの影響がそこまで大きかったとは思いません。

 なるほどー。世代的/時代的な違いや、パソコン/アーケード/家庭用ゲーム機、のうちどれを中心としたゲーマーだったかによっても、「仕様」という言葉をユーザー語として使うようになった時期が違ってくるわけですね。
 1987年に刊行された『新明解ナム語辞典』に載っていて、90年代初頭にはパソコンゲームのユーザーが使い始めていたということは、そのあたりの時期にゲームのユーザー語としての「仕様」が定着したようですね。
(余談。このサイトによれば千葉県立中央図書館で『新明解ナム語辞典』を閲覧できるとのこと。中身見たことないんだよなあ)
 私個人の感覚では、このバーチャの一件があまりにも「象徴的なエピソード」として鮮烈で、それ以降「仕様」という言葉が自分の中にインプットされた、といった感じです(ただ、このバーチャのエピソード自体をどこで、いつ知ったのかの記憶が曖昧なので……たぶんリアルタイムではなく、何年かあとのはず……いつの時期から意識しはじめたかはちょっとわかりません。高三から大学二年生あたりの時期か?)。
 とりあえず、「『仕様』の誕生」というこの記事の当初の見出しはさすがにちょっと言いすぎだったかなと思うので、「ユーザー語としての『仕様』をめぐって」という見出しに差し替えました。

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