ホラーやSFやポリティカルスリラーもののフィクションでよくある「ものすごい災害とか危機を目の当たりにして騒然とする人々の中、ただひとり淡々と聖書の一節を諳んじる」という行動がちょうかっこいいので、死ぬまでに一度やりたいと思ってる。ていうかそれが死亡フラグになって宇宙怪獣に丸呑みになってもいいとさえ思う。来たるべきその日のためにトイレに新約聖書を置いているくらいだが、ぜんぜん読まない。あれか、やっぱ旧約聖書のほうがいいのか。
あと引用するなら格調高く文語訳でいきたいな。やっぱ、口語訳で引用してもなー。例えばレギオンであれば、
主が、「お前の名は何か」とお尋ねになるとそれは答えた。「我が名はレギオン。我々は大勢であるが故に」*1
と引用すれば、マンガであれば大ゴマぶち抜き級のかっちょよさで、思わず隣にいる人が気を利かせて「マルコによる福音書、第五章九節か……」みたいにばっちりあわせてくれそうなもんだが、口語訳で
また彼に、「なんという名前か」と尋ねられると、「レギオンと言います。大勢なのですから」と答えた。*2
と引用してしまっては、永島敏行も苦笑いだ。
まあしかし口頭での引用はちょっと難度高い。全文暗記していて尚且つそのシチュエーションにぴったりのものをチョイスするセンスも必要だ。そこでもうちょっと難度低いソリューションとして「聖書の一節のみが書かれた手紙を送って失踪」「部屋の壁の隅に聖書の一節を書き残して失踪」「パソコンのメモ帳に聖書の一節を残して失踪(パスワード「BABEL」でロックしておく)」というのがあってこちらは暗記してなくても書き写したりコピペすればいいので楽勝だが、さすがにそれだけだと頭悪そうなので英語で書こう。もちろん欽定訳からの引用だ。ああそれと、読んだ人が英語わかんなくてなんとなくいつものノリで「あれか、ひぐらしに出てくるフレデリカなんちゃらの詩の英訳か」「ひぐらし! 容疑者はまたもや『ひぐらしのなく頃に』の熱狂的なファン!」「萌え系アニメの少女が大量の弾丸を撃ち合うっていうゲームはないのか?」的なことになりがちなのでちゃんと日本語訳も併記しておこう(あれ? 容疑者?)。
一般向けの聖書には、「愛する者が亡くなったとき」「祈りたいとき」「生活の指針が必要なとき」みたいな、こんなときはこの章のこの節を読んでください的なインデックスが最初に付いてたりするんだが、そんなノリで、「シチュエーション別・引用にオススメな聖書の一節」みたいなデータベースやWikiがあれば重宝する人は多いに違いない。ていうか俺が重宝する。「辞める直前に終わらせた仕事で気の利いたイースターエッグを仕掛けたシステムを納品したんだけど、誰が仕込んだかバレない程度に『作者は俺』をアピりたいとき」「昔の女にそれとなく気を持たせつつ手紙だけ出して姿を消したいとき」「宇宙怪獣が襲来したんだけどまだ名前がついてないのでキャッチーなネーミングを提案しつつ上司に自分の博識っぷりを見せ付けたいとき」「やたら仕事の話をしたがる若い同僚を煙にまきたいとき」みたいな感じで。
でもあれなんだよなー。最近の欧米だと、大災厄を目にして聖書を引用したりするのは、周囲の人間を不安に陥れて煽動する原理主義者とか、モロに悪役のやることなんだよなー。気をつけねばならん。どちらにせよ、俺のような俗人はうまいこと引用できたこと自体に興奮して妙なテンションになってしまうだろう。淡々と、できるだけ無表情に諳んじるところがかっちょいいのであって、決して「わ、わが名はレギオン! われわれはおおぜいであるがゆえに! ブヒ、フヒヒヒヒ!」みたいに一人でアッパーになってはいかんのだ。
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*1:映画『ガメラ2 レギオン襲来』より 石橋保の台詞