NGM+その他の欲望

Nightcap Gamer's Memopad, そしてその他諸々についてのサムシング。

Kindleオリジナル小説『お前たちの中に鬼がいる』を読んだ



Amazonのユーザーレビューはもとより、一部のネット界隈でも妙に評判が良い(でもまだ藤井太洋Gene Mapper』ほど広く話題になっているわけではない)梅原涼『お前たちの中に鬼がいる』を読んでみた。昨年末にKindleオリジナルとして、(たぶん)個人で電子出版された小説だ。

レビューで多くの人が指摘していることとして、「この値段でこのボリュームはすごい!」というのがある。うーん、小説でコストパフォーマンスについて言われてもねえ……とか若干鼻白んだのだが、Amazonの紹介ページによれば仮に紙の文庫本なら400ページ弱もある長さで、オリジナルの電子書籍としては異例のボリュームであることは確かだ。そしてそのボリュームにも関わらず99円というかなり思い切った価格で売られているので、俺も白んだ鼻を速攻で真っ赤にして1クリックで購入してしまったというわけだ。コスパ! CP! 知らない奴は損をする!

まあそれはともかく。粗筋は以下のような感じ。

目が醒めると、須永はどこともしれない部屋にいた。机と椅子だけの殺風景な部屋。どうしてこんなところにいるのか、何もわからない、思い出せない。それどころか、記憶が混濁していて、自分の名前以外のことは曖昧にしか思い出せない。混乱する須永は、部屋に置かれた机に奇妙な一文が書き残されているのを見つける。
「お前たちの中に鬼がいる」
鬼とは何か? 「お前たち」とは? 部屋から出ると、薄暗い地下施設の中には他に五つの施錠された部屋があった。それぞれの室内には手錠で繋がれた五人の人物。須永同様、どうしてここへ来たのかは思い出せないようだが、それぞれが何かの情報を、あるいは兇悪な意図を隠しているように見える……そして須永も、突発的に己の中で爆発する暴力衝動を抑えられないことに気づいていた。あいつら5人の中に、いや、俺も含めたこの6人の中に、「鬼」がいるのか……?


Amazonの(たぶん著者自身が書いたであろう)内容紹介では、「レトロゲームの不条理さをモチーフにしたホラー小説」と書かれているが、確かに往年の、まだコマンド選択ではなくキーボードから直接コマンド入力していた時代のアドベンチャーゲームのような不条理な謎解き風味はある(でもあくまでモチーフだから、別にビデオゲームがテーマとかではないよ。為念)。

不条理状況下で繰り広げられるデスゲームとかソリッドシチュエーションスリラーとかは、正直なところ個人的にはあんまり好きじゃない(『SAW』以降のやつは特に)。なんていうんですかね、作者の幼稚なシニシズムが透けて見えるところが嫌なんだよね。人間は利己的ですぐにお互いを攻撃しあうのだ、世界はこんなにも醜いのだ……みたいな薄っぺらい観念を特に味付けせずに直接出しちゃって神気取りで独り悦に入っちゃう感じでね。いや、それお前が作った世界での話だから、マッチポンプだから! とイライラしてしまう(まあ野暮なツッコミだというのは承知しているが、でもさ)。

なので、この作品もそんな感じかなーという予断があり、99円なので思わず買ってしまったもののちょっと読み始めるまで積んでいたのだった。が、重い腰を上げて読んでみたら電子書籍用の小説だということをかなり意識して書かれているようでリーダビリティがたいへん良く、一気読みしてしまった。この手のジャンルの定型をちょっとずつ外していって最終的にはずいぶん違った地点に着地する展開や伏線回収の手際の良さなども特筆すべき点だ。いや、これはなかなか侮れない。


※2013/10/13 追記: このエントリ冒頭に貼っていたAmazonへのリンクが切れているのに気づいた。本日時点で、すでにAmazonではKindle版の取扱が中止され、商品ページもなくなっている。あれ、公開停止したのかな……と思って検索してみると、なんと11月に主婦の友社から内容改訂の上で単行本化されるとのこと。ほほー。

お前たちの中に鬼がいる

お前たちの中に鬼がいる


さて、なるべく粗筋程度の事前知識で読み始めたほうが楽しめると思うが、読了して思いついたことを以下にメモしておく。直接的には書かないけど勘のいい人ならネタバレの危険性が高いので注意。




著者はプロの作家の変名ではないかという噂を見かけたが、なんとなく小説作家ではなく、ある種のゲームのシナリオライターっぽいなーとは思った。ここで言う「ある種のゲーム」っていうのは、ある市場のゲームの、ひとつのジャンルというか流れに属する作品群を俺は想起している。物語内の人物配置にも関わらずキャラクター造形から「そういったジャンル」の匂いが比較的希薄なのは、これは逆にそういったジャンルの定型を踏まないよう気を使ったように見受けられるし、終盤で一気に伏線回収すると共に登場人物たちのアレが解決されることでナニになる、という話の運び方、オチの付け方……まあそのジャンルのシナリオライターなんじゃないかというのはちょっと穿ち過ぎな読みかもしれないけど、そのジャンルの作品群からの影響は高確率であるとは思った。