NGM+その他の欲望

日々のサムシングについてのスクラップブック。

90年代中盤のダイナミズム

ラジオから藤井隆プロデュースでフットボールアワー後藤輝基が出すカバーアルバムのMixが流れてきていい感じだったんだけど、途中で「カーニバルは終わらない」という印象的なサビの曲があり、この曲知ってるんだけど元はなんだったっけ……と即ググった。宝生舞「Carnival」(1997)だった。さすが女優の唄う曲に深い思い入れのある藤井隆ディレクションだ……。

 



この曲は当時どこで聴いたのだったか。そもそも宝生舞がCDを出していたことを忘れていたのだから、曲だけどこかで流れてきたのを聴いたのだろうか*1YouTubeの映像は「HEY!HEY!HEY!」でのものかな。匂い立つような1997年の空気感だが、宝生舞かっこいいな!

 


1994年にはこんなだった宝生舞が、1997年にはあんな尋常ではないかっこよさとダルさを身に纏う、これこそが90年代中盤のダイナミズムや! という感じだ。

思わず続けてYouTubeから貼ってしまうが、

 

 

1994年にこんな感じで多幸感溢れるアイドル歌謡広瀬香美/筒美京平)だった内田有紀が、次の年には

 

 

「90年代」のカリカチュアじみてコムロナイズされていくのもまた90年代中盤のダイナミズムという感じである。

というか、ベタな話ではあるけど1994年までと95年以降では明らかにそこで空気感が変わってしまう、というのはやはり同時代の記憶としてもそうだし当時のこういう映像を振り返ってみてもそう感じるものはあるな。90年から94年まではバブル景気末期〜その残滓・残り香があり、浮ついた空気というか、風邪の治りかけの微熱のせいで根拠のない楽観主義みたいのを抱いているような気分というか、まあなんかそういうのを、今の目線からは感じることがある。

これくらいの時代のフジテレビの若者向けドラマをCSとかU局で再放送しているのをけっこう見てしまうのだが、まあ、なんとも言えない気分で胸が一杯になってしまうんだよね。たとえば『いつも誰かに恋してるッ』(90年1月-3月)と『いつか誰かと朝帰りッ』(90年10月-12月)とか、「ボクたちのドラマシリーズ」(92年、93-94年)の諸作とか、『じゃじゃ馬ならし』(93年7月-9月)とか。

この流れでいくと当然ながら『17才-at seventeen-』(94年4月-9月)がまた見たいのだが、これは未成年の飲酒・喫煙シーンがガンガン出てくるドラマなので(いわゆる「不良行為」的な描き方ではなく、ごく自然に飲酒・喫煙する)当時も普通に問題になってたしその後ソフト化も再放送もされていないっぽいのでやっぱさすがに難しいのかな。楽しいドラマだったと思うんですけどね。

*1:調べたら日テレの深夜ドラマ枠「Shin-D」のエンディングテーマだったらしいが、その枠のどれかの作品のEDだったのか枠共通のEDだったのか判然としないし、俺はその枠のドラマを見ていた記憶がない。

マルイと丸井今井

https://www.0101.co.jp/ より

 

マルイのロゴ「○I○I」を「オイオイ」と読んでいた、というあるあるネタのようなものを最近どこかで見かけた。どこだったのか思い出せないのがなんというか年を取ってしまったなという感じだが、それと別に思い出したことがあるのでメモしておく。

 

北海道ローカルの老舗百貨店に「丸井今井(まるい・いまい)」という店がある。本州のファッションビル「マルイ」とはまったく関連のない企業だ。90年代末頃までは北海道全域のいくつもの都市に店を構え、クレジットカード事業も行っていたりして道内の百貨店としては圧倒的な知名度があった。日常会話の中では正式名称の「丸井今井」とフルネームで呼ばれることはほとんどなく、短縮した「丸井」、もしくは「丸井さん」という愛称で呼ばれることが多かったと記憶している。

俺は1996年に北海道から上京したのだが、上京してからも新宿などにある「マルイ」は北海道の「丸井今井」と同じデパートである、と勘違いしていた。ここまでだったら当時の北海道出身者の上京あるあるネタだが、たぶんほとんどの道民は実際にマルイに足を運んだり、看板を見れば「丸井今井」とは違うデパートだと気づくはずだ。

何しろ東京のマルイと北海道の丸井今井とでは、看板のロゴマークがまったく違う。東京のマルイは例の「○I○I」なのに対し、丸井今井ロゴマークは大きな円い輪の中に漢字の「井」が入った昔ながらの屋号か、もしくは丸井今井のイニシャル「M」をリボンのようなイメージでデザインしたロゴの下に漢字もしくはアルファベットで「丸井今井/marui imai」と入っているもので、まったく似ても似つかないのだ。

 

http://www.imhds.co.jp/company/history_maruiimai.html より

 

多くの北海道出身者はこのロゴマークの違いで自分の勘違いに気づくと思う。しかし俺は東京のマルイのロゴマークを見て

「さすがは丸井さん、東京では都会風でモダンなロゴデザインに変えているんだな。ターゲットにしている客層も若者中心みたいだし、ブランド戦略も柔軟に変更していく、というわけですか……」

と、一人合点していたのだった。また、東京のマルイの「○I○I」という、一見して読み方がわからないロゴも、「まる・い(○I)」と「い・ま・い(I○I)」の読みを合体して抽象化したデザインなんだな、と勝手に納得していた。

2004年に吹石一恵がマルイのイメージキャラクターになったCMが流れてちょっと話題になったと思うのだけど、その頃に帰省して丸井さんに行ったときに「あれ、こっちでは吹石一恵のポスターとか店頭ディスプレイがないんだな」とちょっと訝しんだのは覚えている。

 

96年に上京して以来ずっと勘違いしていて、やっと気づいたのは2009年になってからだ。その年、北海道の丸井今井が経営不振から倒産し、三越伊勢丹ホールディングス傘下で事業再建を行うことになったというニュースが報じられた。俺は職場で日経新聞を片手に「丸井さんも大変だなあ、新宿のマルイもどうなるんだろうね? 伊勢丹がすぐ目の前にあるから、一緒になったりするのかな?」と、同じく北海道出身者の同僚に話し、えらくバカにされたものだった。

上京以来、そのときまで13年間、マルイの店舗に行ったことも何度かあったのに、1ミリたりとも自分の思い違いを疑ったことはなかった。そういう思い込みの恐ろしさというのはあるのだ、ということは折に触れて警鐘を鳴らしていきたい(個人的などうでもいいことを大仰にまとめる結び)。

『トップガン マーヴェリック』/最高練度のウェルメイド

https://topgunmovie.jp/

トップガン マーヴェリック』を見てきたよ。IMAXで。大スターが金をかけ、スタッフも役者陣もその意気に応えて最高の練度で作った「ウェルメイド」、って感じで、まあー実に楽しい一本だった。良かったよかった。

良かったんだけど、本作が良すぎたからか若干の歴史修正を(無意識に)行っている人がいるのがちょっと気になる。たぶん俺と同世代くらいであろう映画好きの人が『~マーヴェリック』の流れで1986年の前作『トップガン』をあたかも名作かのように語る場面を何度か見た。いやー全然そんなことないでしょーだいぶゆるゆるの映画でしょーと思うんだがな。

それは今の目から見てゆるゆるってこともあるんだが、当時の、同時代の観客の感覚としても「ハリウッドのヤングスター映画(=アイドル映画)」としての魅力と影響力は多大にあるけどそういう文脈から独立して生き残るタイプの映画ではないよねという空気感はあったと記憶している。でも、そういう映画であったとしてもあたかも名作であったかのように歴史/記憶を塗り替えしてしまうくらいの力が『~マーヴェリック』にはあったのだ、ということなのかもしれない。それならそれで俺が文句を言うようなことではないが(個人的にはそこまでの感心はしなかったので)。

 

さて、念のため『~マーヴェリック』の予習もかねて前作『トップガン』を改めて見返してみたけど、トニー・スコットの映画としてもちょっとこれは今見てそんなに良いところはないなとは思った。翌年の『ビバリーヒルズ・コップ2』がお話はダルダルなのに映像と編集のセンスだけで見せきってしまうのとは対称的な平凡さだ。

特に中盤のケリー・マクギリスとトム・クルーズのラブシーン(に至るまで)の流れはどう見ても妙で、「愛は吐息のように」がしつこくリフレインされるところも含めて今見ると非常にキッチュな80'sという味わいがある(し、これは当時もわりと変だと受け取られてたと思う。パロディのネタにされがちでしたよね)。

 

そういう意味では、『~マーヴェリック』中盤のトムとジェニファー・コネリーのラブシーンのなんか不思議なショットの繋ぎ(二人の顔が横に並んでて、なんかジャンプカットっぽく時間が経過しているのか、よくわかんないけどトムだけどんどん脱いでいく、あとなんかキラキラしたエフェクトが入る)、あの不思議な感じは前作のラブシーンに通じるものがあり、全体的にカチッとした『~マーヴェリック』の中でも例外的にバランスを欠いたシーンだ。むしろちょっと魅力的ですらある。あそこで「愛は吐息のように」のイントロだけしつこくリフレインされたら面白かったがそこまでやると『ホット・ショット』になっちゃうな。

ほとんどすべての観客が褒めているように、訓練/空戦シーンはどれも素晴らしかったけど、冒頭の極超音速機「ダークスター」(ワンカットだけ機体にペイントされたスカンクワークスのロゴをはっきりと捉えたショットがあるが、なんとちゃんとロッキード・マーチンのスカンクワークスにデザインしてもらっているという!)のテスト飛行のくだりは良かった……というか、え、あの『トップガン』を『ライトスタッフ』のような物語に読み替えるのか!という興奮があった。

だがそうはならず(そりゃそうだ)、前作の流れをほぼそのまま踏襲しながらも主人公の立ち位置を変えることで男が老いとどう向き合うか、そして若い世代に何を継承するか、というハリウッド映画の優等生的な物語に落とし込む。でも演じるのはトム・クルーズなので(さらに付き合っている彼女は現在のケリー・マクギリスではなくジェニファー・コネリーなので)別にリアルな話にはならないしそんなものは誰も期待していないのでこれは別にいい。そういうところはアイスマンヴァル・キルマーが一手に引き受けていて、ここはけっこうしんみりしてしまった(ヴァル・キルマー本人の咽頭癌の件もあり)。

若い世代に何を継承するか的なテーマには「いつかこんな無茶は辞めざるを得ないときが来るけど今日はまだその時じゃない、今回も俺が先頭切って一番の無茶をするからな! お前らに付いてこれるか?」的に煽って若い奴らもウォウウォウそれに応えるという感じでやってたので、まあなんかそんな感じだ。

これはトム・クルーズの映画であり、つまり別に普遍的なことを描くことには一切興味がない、あくまで「トム・クルーズにとっての『老い』への向き合い方」の映画なので別にそれでいいんだが。……ここは重要なことなので重ねて言うが、別にそれでいいのであり、正しいのだ。スターの映画とはそういうものであり、そのように映画を私物化、否、私小説化することこそがスターの存在意義なのである。そしてこの映画においてトム・クルーズが語る私小説はあまりにも健全で真っ当で優等生的に「トム・クルーズに期待されていること」を反映していて、正直なところ俺にはそれがちょっと物足りなかったのだった。

だから、冒頭の極超音速機テスト飛行シークェンスを見たときに俺が勝手に幻視してしまったような、マーヴェリック=トム・クルーズが己の老いとある種の狂気を自覚しながら、孤独に、それでも己の中にある「正しい資質」に殉じるかのように音速の向こう側、彼岸の世界へと突き抜けていく、そんな私小説というよりも「遺書」のような物語を見たかったというのはある。あるけど、さすがにまだそこまでトムは年取ってないよね。俺が先走りすぎただけだな。

極超音速テスト、実際の冒頭のパートではあっさりとマッハ10への到達成功!→さすがだぜマーヴェリック!→だが俺はーさらにーやっちゃうぞー!→マジかよ……信じらんねえ……ってなってオチついてサクッと次に移るの、まさにトム・クルーズの映画の手つきって感じでそれはそれで楽しいんだけどね。

 

さて、映画そのものとは若干ズレる話だが、見に行く前からなんとなくそんな予感はしていたんだけど、SNSの映画クラスタと呼ばれるような界隈の人たちはこういう立ち位置の作品をちょっとデカい言葉で褒めすぎだよなーというのは今回もまた感じた。SNSで通りが良くなるように感想を最適化していった結果、大仰な褒め or 倫理的繊細さの感情的な表明でアテンションを集めるタイプの言説ばかりが目立つようになっていて(目立つように書かれているのだから当たり前だが)、いやーほんとあの界隈の感想は信用できんわーという思いを新たにしました。

HPの「Wolf Security」Web CMはおっさんASMR的に最の高なので見ろ! 今すぐ見ろ! という話

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これ、広告キャンペーン期間が終わったら消されてしまうかもしれないから早めに見てほしいが、今やっているヒューレット・パッカードのセキュリティソリューションのWeb CMがいい。

最近ちょくちょくTwitterの広告で流れてきて、見るとはなしに見ていたら妙にクセになってしまった。サイバー犯罪者が出てきて、テレワークで仕事しているビジネスパーソンの家庭や、出社抑制でガラガラになった会社で孤独に作業する情シスの部屋に「侵入」し、カメラ目線で「HPのセキュリティソリューションが入ってたら俺も悪さはできないんだが……」的なことをうそぶく、といった内容だ。

 


www.youtube.com

 

このサイバー犯罪者、一見小綺麗で穏和なインテリ初老男性っぽい風体だが、内に秘めた暴力性や野蛮さがその所作に時折垣間見えるといった役作りで、とってもいい感じだなー、これはみんな好きな感じの悪役造形だろう、と思ってたらなんとクリスチャン・スレーターだった。iPhoneの小さな画面で見てたから最初は気づかなかったよ。どうやらドラマ『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』でスレーターが演じたキャラクターをイメージした配役らしいですね。このドラマ、Amazon Prime Videoの視聴キューに入れたまますっかり忘れていたので、今度見てみるか。

さらに、日本語吹替は渡部篤郎がやってて、近年の「食えない悪役」をやるときに見せるあの独特のクッチャクチャした言い回し&喋り方でやってて、これはもう最高としか言いようがない。おっさんASMR風味を強く感じるので、おっさんASMRが好きな人はすぐに見ろ!

渡部篤郎のこの独特のクッチャクチャ喋り芝居、俺が最初に見たのはドラマ『銭の戦争』での消費者金融社長役のときだったが(たぶんその前からいろんな作品でその萌芽は覗える)、近年はTVで見るときはだいたいこの芝居なような気さえする(別にそんなことはないんだが)。あ、吹替が渡部篤郎だという公式の情報はどこを見てもないんだが(HPのキャンペーンサイトにも、スターダストプロモーション渡部篤郎プロフィールページにもない)、この声とクッチャクチャ喋りで渡部篤郎じゃなかったらそれはもう詐欺だと思うので渡部篤郎だと思います(ていうか渡部篤郎じゃなかったらCMディレクターはなんでこんな渡部篤郎のクッチャクチャ喋り芝居に寄せた演技を指示してるんだって話だ)。でも、全然違う人だったらごめんね。ごめんなさい。

まとめとしては、クリスチャン・スレーターのいい感じのサイバー犯罪者芝居に渡部篤郎のクッチャクチャ喋り吹替がついておっさんASMR味がたいへん濃厚なのでおっさんASMR好きは今すぐ見ろ! ということです。たぶん広告キャンペーン終わったら消えちゃうので。以上おしまい。