NGM+その他の欲望

Nightcap Gamer's Memopad, そしてその他諸々についてのサムシング。

ゲーム好きにしかわからない言葉たち〜永田泰大『魂の叫び』



 同時期に刊行された『ゲームの話をしよう〈第3集〉』(ISBN:4757724063)に比べるとあまりこっちの本についての感想を見ないので、忘れないうちに書いておこう。永田泰大の『魂の叫び』はたいへん面白いのでゲーム好きは読みましょう。
 週刊ファミ通の同名コラム3年分をまとめた本書は、予想外に分厚い。約400ページ。見開きの片側はイラストとはいえ、あの小さなコラム(ファミ通の誌面で1/2ページだ)が積もり積もってこの分量になった結果、細切れに連載を読むのとはまた違った、ある種の「重み」が生まれた。

人はゲームに興じるとき、
わけのわからない言葉を発することがある。
意味でなく意義もなく、
その場以外では機能しない言葉の羅列。
それが魂の叫び!

 帯に書かれたこの惹句、本書の内容を具体的に説明しているのは、この短いテキストのみだ。表紙はビデオゲームとは関係のないシンプルなデザイン、説明的な前書きはなく、後書きは著者による解題で、どちらかというと抽象的な話になっている。つまりこの本は、ファミ通の連載の読者か、あるいは帯の惹句だけでピンとくるような者しかキャッチアップする気がないのだ。ページを開くと、そこからはもう、唐突にゲームの話だ。いや、「ゲーム」の「話」ですらない。そこにあるのは、名もなき「プレイヤー」の切り取られた「一瞬」だ。
 ゲームで遊んでいるときに思わず叫んだ/つぶやいた、生のままの言葉。一瞬で賞味期限が切れるその生モノの言葉を、著者は短い文章の中で再現しようとする。それはどのようなシチュエーションだったのか、その叫びにはどんな意図があったのか(もしくはなかったのか)、それを聞いたまわりの反応はどうだったのか……。
 前述のとおり、短い、軽めのコラムだ。基本的には笑い話の一種、ゲーム好き同士がよくする雑談の延長線上にある。だが、叫びが発された「一瞬」を短い文量で再現するために切り詰められたテキストは、時として奇妙な普遍性を帯びる。その叫びが何のゲームで発せられたかは関係なく、そう叫んでしまうことを直ちに了解できるという普遍性。もっとも、ここでいう普遍性とは、ゲーム好きの間でのみ通用する普遍性だ。ゲームが好きなら、たぶん誰でも理解できる。だが、ゲームで遊ばない者には何のことだかわからない。限定的に開放された言葉。叫び。
 この本の無愛想な体裁や説明不足に見える構成は、ここからきている。ゲームを知らない者にはいくら説明しても伝わらない。ゲームが好きなら1ページ目を斜め読みしただけですべて伝わる。ちょいと掟破りだが、その1ページ目、連載第一回目をそのまま引用する。

負けます!!

発言者K。なぜか落ちゲーを得意とする女性は多い。その日も女性編集者Kは、海外版の『ドクターマリオ』で並みいる男性編集者たちを蹴散らしていた。そこに現れたのは、編集部でもトップクラスの実力を持つBである。両雄の対決に、そこそこのギャラリーも集まる。試合開始。巧みにカプセルを回転させながら、連鎖を仕込むふたり。当然のことながら容易に決着を見ない。劣勢かと思いきや逆転の連鎖が炸裂。偶然に降るカプセルが必殺の仕込みを封印。徐々に高く積み上がるカプセル。短い叫びがあがり始める。速まるゲームスピード。軽快にループするテーマ曲(名曲)。機械のように精密に操作されていたカプセルが、徐々にぶれ始める。仕込み、潰され、消し、降り、熱戦は終焉へ向かう。どちらの画面にも、自由なスペースはほとんどない。容赦なく降るカプセル。消すのか、仕込むのか、どっちが勝つのか。まさにどちらが勝ってもおかしくないほどカプセルが積み上げられたとき、Kが「あ、あ、あ」という弱い声を発し、ついに叫んだ。「負けます!!」。果たして決着は数秒後についた。「負けます」。それはふつう、そんなふうには使わない言葉である。わずかな可能性でも逆転を信じられる技術と集中力を持った人が、その技術と集中力ゆえに数秒後の敗北を確信する。「負けた!」でも「負けたくない!」でもない。「(数秒後に私は確実に)負けます!!」。人はゲームに興じるとき、わけのわからない言葉を発することがある。意味でなく意義もなく、その場以外では機能しない言葉の羅列を口にすることがある。それが魂の叫びでなくてなんだろう。

ロックンロール。

 このような「一瞬」が、以降約400ページにわたって続く。一編一編は軽い。だが、続けて一気に読むことで、そこにある種の重みが生まれ、それが重心となって、ぐるぐると、次第に速度を増して回転しはじめる。回転の行き着く先は、とにかく早く、誰かと何でもいいからゲームがしたい、という欲求だ。
 優れた映画評や書評集は、読んでいるうちに「何か映画が見たい」「本が読みたい」という熱気を読者に感染させる。この本は何か具体的なゲームについて評論しているわけではないが、「ゲームをプレイする」という行為そのものの優れた批評であり、読者を抗いがたくゲームへと向かわせるだけの熱量を持っている。できれば一気読みを。

魂の叫び

魂の叫び